第4話理不尽な暴力

 調理を始めてから数十分。私は四人分のミートスパゲティを作ると、居間で待ってる母様たちの元へと運んでいく。古い木の机にミートスパゲティの乗ったお皿を並べていくと、母様が大きなため息を吐いた。


「またこれ? もうそろそろ飽きたのよね」

 

 ジロッと私の方を一瞥いちべつして、文句を垂れてきた。いつものことだ。もう慣れている。私は一言。


「すいません……」


 と、母様の太ももらへんを見ながら謝る。いつもの流れだ。それに便乗するように、兄様も。


「そうだそうだ。もっと他のも作れ!」


 なんて言ってくる。誰のせいでこうなったのか、呆れてしまう。今の兄様の発言には少し腹が立ったが、それもすぐに収まる。私の中では怒りよりも恐怖の感情が勝っているから。だからまた一言だけ謝罪をする。

 いつもならここで終わるのだが、今日はまだ続きがあった。父様は私以外の二人をたしなめるように、両手を前に突き出し。


「まぁまぁ二人とも。せっかくカリーナが作ってくれたんだから、あまり文句を言うもんじゃないよ。せっかくの我が娘の手料理なんだから、美味しくいただこうじゃないか」


 そんなことを言ってくれる。いつもは不気味で仕方がない父様だけど、今この時だけはいい人なんじゃないかと思えてしまう。父様の言葉に兄様も母様も納得するように首肯する。

 私は父様にぺこりとお辞儀をして、家族全員分のフォークを持ってくるためにまた台所へと向かう。私がフォークを持ってくると、みんなバラバラで食べ始めた。全員が無言で食べるため、フォークが皿に当たる不快な音だけが響いている。いつもは母様と兄様が会話をして、私が無言で食べると言う構図なのだが、今日は父様がきているから二人とも緊張しているのだろうか? そんなことを考えながら、私は無言で食べ進める。家族全員の食事が終わると、私はそれらを重ねて台所へと持っていく。

 食器のを全て洗い終えると、居間には誰もいなかった。どこにいるのだろうと探してみると、玄関の方で父様が靴を履いて外へ出かける準備を進めていた。


「じゃあもう行くよ」


「えぇ。次はいつ帰ってくるの?」


「わからない。また暇ができたら」


 そう言い残して、父様は家を出て行ってしまった。見送っていた母様はひらひらと手を振り続けており、兄様は私が買ってきたクッキーを食べていた。ピシャッと玄関のドアが完全に閉まる音がすると、母様はくるっとこちらを向いてそのまま私の方へと歩いてきて思いっきり私のほほを叩いた。


「え……?」

 

 いきなりのことに状況がつかめず困惑する。どうして今急に私は叩かれたのだろう? 私が何か母様の気に触ることをしただろうか?

 頭の中で、母様に叩かれた理由を模索する。でも考えてもわからない。母様に対する言動は一番気をつけているはずだ。叩かれる理由がない。私はキッと母様をにらみつけるが、母様は鬼の形相で私のことを見ていた。


「あんたがなんであの人に優しくされるのよ! 本当に腹立たしい。愛想ばっか振りまいて気持ち悪いのよ!」


 そんなことを言われた。あの人というのは十中八九、父様のことだろう。でも別に私は愛想を振りまいたつもりも、優しくされたつもりもない。どうしてこんな理不尽な理由で叩かれなくてはならないのだろう……。

 考えるだけ無駄か。私は産まれてからずっと母様の理不尽に付き合わされてきた。

 今回に限らず、私が叩かれてきた時はだいたい理不尽な理由だ。母様は私のことをストレスを発散する人形ぐらいにしか思ってないのだし、こんなのは今に始まったことじゃない。

 

「ごめんなさい……」


 頭を深く下げて、また謝罪をする。すると母様は舌打ちをした。


「いつもごめんなさい、ごめんなさいってそれしか言えないの?」


 そんなことを言われ、私はまた「ごめんなさい……」と謝罪する。それを見た母様は、また舌打ちをしてどこかへ言ってしまった。私は叩かれた場所をさすりながら自室に戻る。部屋に戻ると、敷かれている布団に横たわる。いつになったらこの地獄から解放されるのだろうという悲しさや悔しさ、そして自分のみじめさから私はまた枕を涙で濡らしてしまった。


























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