幼き頃

第2話戦時中

 家の物置兼私の部屋である場所で、私はいつものようにぼーっと窓の外を眺めている。すると部屋のドアが二回ノックされた。


「カリーナ……。カリーナ! 」


「は、はい……」


 母様は私が返事をするとすぐ部屋に入ってくる。

 突然大きな声で母様に呼ばれ、私は萎縮いしゅくする。そんな私の様子を見た母様は、さらに期限を悪くして。


「呼ばれたらすぐ返事。なんでそんなこともできないのかしら? いつまで経ってもトロくて無能で、ほんと嫌になるわ」


 いつものように母様に罵詈雑言ばりぞうごんを浴びせられる。こんなのはもう慣れた……というのは少し嘘。最初ほどじゃないにしても、言われたら多少傷つく。でもこういう時は、素直に謝るだけ。


「ごめんなさい。次はすぐに返事します……」


 それで済む話。これ以上酷いことはされない。反論したり反対したり、母様の機嫌を余計損なうことをしなければ少なくともぶたれたりはしない。私はニッと無理やり笑顔を作る。


「それで、私に何か用でもあるのですか?」


「当たり前でしょ。用がなかったらあんたの汚い部屋までわざわざ来ないわよ。いつものやつ、すぐ買ってきて!」


 威圧的な言葉と、わかりやすい皮肉を交えて母様は床に貨幣を投げ捨てる。


「それじゃあよろしく」


 バンッと強くドアを閉め、母様は私の部屋から出て行ってしまった。「いつものやつ」というのは、料理の材料のことだと思う。私は投げ捨てられた貨幣を拾い集めると、早速身支度みじたくを済ませる。

 それから私はコートを羽織り、ポケットに先ほどの貨幣を入れて玄関まで足を運ぶ。玄関に着いて靴に履き替えようとすると、ぴょこっと金髪の童顔どうがんがふすまの部屋から顔を覗かせた。


「おい、どこ行くんだ?」


 ジト目で私にそう質問してきたのは、私の兄様のアレンだ。


「えーっと、母様からお使いを頼まれまして、その買い物を……」


 兄様は興味なさげな顔をしてふすまに戻ろうとするが、すぐに私の方に顔を向け直す。


「あっそ、まあいいや。じゃあ俺の分のお菓子買ってきてよ」


 そんなことを言ってきた。

 

「え……。でも菓子は高価なものが多くて、それじゃあ材料費が……」


 私が反論しようとすると、兄様は私のことを睨みつけてきた。


「は? なんとかしろよ」


 その眼光にビクッと怯え、それ以上何も言い返せなかった。


「わかりました」


 そう告げて、私は自分の家を後にする。家族は全員私に対して冷たい。12年生きてきたが優しくされた記憶が一度もない。嫌な思い出ばかり。母様と兄様はいつも私に対して高圧的な態度だし、父様は何を考えているか分からない。そもそも父様は国で一番偉い立場にあるということもあり、ほとんど家から帰ってこない。だからあまり関わったことがない。

 今は戦時中だ。私が生まれた時からこのクレリナという国は、隣国のフレマスという国とずっと戦争をしている。嫌な時代に生まれたと思う。毎日何人もの人が死んでいる。もしかしたら人手不足になり、私も戦うことになるかもしれない。でもその方がいいのかもしれない。今のこの地獄のような生活が続くぐらいなら、いっそもう自害してしまった方が幸せなのではないかとさえ思う。

 灰色の空模様を見ながら、私はいつか幸せな日が来ることを切に願った。






















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