――6――

少女の言うことには

「なかなかそれはスリリングな場面でしたよ」

 少女はそう言うと、懐かしむように空を見上げた。

「じゃあ、紗綾さんの推理はやっぱり」

「ええ、大体あってました。計画は赤羽によるもの。赤羽としてはただ光を見せてアリバイを作るつもりだったんだけど、それだけでは心配になった大庭がさまざまな作戦を練ったというわけです。あの夜三人で寝るというのも、バーベキュー以降のアリバイを確実にする目的だったと言ってました。それにあの橋のうえからもし光が見えなかったら、『あれはなんだろう』ってバンガローの方を指さし、騒ぐつもりだったそうです。彼女としては、そういう場合赤羽が協力してくれると思ったんでしょう。でも実際のところ、赤羽は全く協力するつもりがなかったみたいです」

「でも、一体動機はなんだったんだい?」

「それもあとになって取り調べで判明しました。結局は、赤羽と大庭の交際、浮気から始まったんです。大庭と赤羽が一緒になるには倉吉泰さんが邪魔になった。赤羽は大庭が熱をあげて倉吉泰さん殺害を持ちかけたと言っていたそうですが、どうでしょうね、間宮凛さんも身の危険を感じてたって話です。大庭にとっての恋人、倉吉さんが邪魔になるなら、赤羽にとっての間宮さんというのも邪魔な存在だったんじゃないでしょうか? あともう少し放っておいたら、凛さんもあの二人の餌食になっていたかもしれません」

 それは実に恐ろしい推測であった。一人の男の情欲が為に二人の命が失われようとしていたのだ。私は慄然とした。

「そ、それで、あのノートを置いたのは?」

「赤羽ですよ。以前訪れた時に置いて行ったんですね。それ、証拠物件として押収されたんですけど、あとから探してみたら何冊かあのバンガローにストックしていたみたいで、いろいろなところから見つかりましたよ。もしどこかで失くされてもいいように何冊も隠していたんですね、想像すると滑稽ですが、結構確実な方法かもしれません。あなたが見つけたのはそのまま宿泊者の思い出ノートになった一冊でしょう。結局この筆跡から赤羽にも十分計画性があったってことで罪は重くなりましたよ。その上、この男、憎いことに精神鑑定まで持って行こうとした。結局嘘だとばれてさらに重罪に。まあ、当然の報いですね」

 この少女にしては珍しく。それは吐き捨てるような口調だった。当然の報い、少女はそれを言うと少し満足したのか、長く溜息をついた。

「先生。こんな話ですけど、参考になりました?」

 そう言う少女は告白の返事を待つ少女のように、不安そうで、脆そうで、そして可憐であった。

「はい。とてもいい参考になりましたよ。是非ともその話を書いてみたいです」

 少女は私の言葉に嬉しそうに目を瞑った。

「それは、光栄ですね」

 少女はそう言って立ち上がると、ぐっと伸びをした。

「それじゃあ先生。原稿の完成楽しみにしてますよ」

「あ、ちょっとまって!」

 足早に立ち去ろうとする、少女を私は呼び止めた。彼女の背景には星空が瞬いていた。

「君の名前は?」



 少女の顔は見えなかった。でも、彼女はきっと笑ったに違いない。



「瓦木 紗綾」

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四号バンガロー 裃 白沙 @HKamishimo

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