メリーはふたたぴ
この物語を締めようと思う。
科学の進歩が新しいテクノロジーを可能にした。オルタマシン。コンピューターグラフィックスにアンドロイドを併用した新技術。本物の人間そっくりで人間のように喋り、人間のように思考するマシン。それはたちまちの内に普及した。
特に普及したのはアダルトな、すなわち成人向けのオルタマシンである。人間ではないから、どんな行為を行なっても法律に触れない。法律で保障された売春のようなもので法律で、オルタテック社が建設した施設は世界各国どこの街にも普及した。
ひとつだけ各国の流儀には従わない国があった。日本である。
オルタテックジャパン社は日本だけの独自のサービスを行なうと発表した。それはマイナー・オルタマシン。日本だけの新型オルタマシンである。それは外見上は18歳未満のマシンを採用するというものだ。もちろんアンドロイドの外見なんかには実際の外見などは無関係である。あくまで外見上は「美少年」「美少女」というだけの代物なのだ。
オルタテックジャパンは宣伝用のオルタマシンを作った。名前は「メリー」。13歳女性型。長い金髪が魅力的な女の子だ。
ところがその企画にハイドロジェットPが「待った」をかけた。彼女はとっくにメガプロを引退していたが、懐かしい名前は忘れていなかったのだ。
「メリーの名を勝手に使うことには腹が立ちます。それよりも許せないのは、マイナー・オルタマシンという恥ずかしい機械に使われていることなんです。私にとってメリーとは単なる人名なんかじゃない。言うなれば、初恋の人の名前なんです。
ええ、そうです。私にとってのメリーは初恋の人なんです。だから穢して欲しくない。心の中にそっと眠っていて欲しいんです」
オルタテックジャパンのCEO、小酒井譲氏がメリーの名前を勝手に使ったことを詫び。問題のマイナー・オルタマシンの名前をコーシカに改めたことで問題は収まった。これ以後、オルタテックジャパン社では、マイナー・オルタマシンの名称を、親しみやすい英語の名前をやめ、発音がややこしいロシア語風に変えることになる。バーバチカやザマーク、そしてミーフなどに。
『美しき冒険旅行』 山本弘 @hirorin015
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