苦い勝利
新作『美しき冒険旅行』を完成させたハイドロジェットPは、日本だけではなくオーストラリアや東西アメリカ、中国、ロシア、ヨーロッパ各地で指名手配された。もちろん敵は児童ポルノ法違反や、世界各国の人種差別反対論者たちだ。ハイドロジェットPは彼らから蛇蠍のように嫌われていた。
ところがハイドロジェットPが投げ銭システムから利益を得ていないことが判明した。もちろん視聴者の中には投げ銭を活用して、感動を表現する者もいたのだが、ハイドロジェットPがそれを辞退したのだ。余った金額はすべては人種差別反対論や児童ポルノの犠牲者への見舞い金として支払わられた。
こうした金の支払いについて、ハイドロジェットPは裁判でこのように述べた。
「確かに私は法律を破りました。しかしそれがいけないことなんですか。私はメリーの裸を描きました。しかしコンピューターグラフィックスの上だけです。実在する女の子を傷つけたわけじゃありません。ブッシュボーイについても同じです。たしかにいまのアボリジニは裸ではありません。しかし、今から1世紀前、この映画の原作が書かれた頃は、本当に通りに素っ裸だったんです。みんなはそれを当たり前だと思っていたんです。
昔の人間を本来の姿で描くことの、いったいどこがいけないのでしょう。それでは人間の表現の自由というものを理解してはいないと私は思います。私はそれを取り戻したい。すべての表現者にとっての表現の自由を。
現在の日本、いやすべての国では、表現の自由が大きく束縛されています。児童向けのマンガですら表現規制にさらされています。たとえば『ドラえもん』のしずかちゃん。このマンガの原作が書かれた頃は、しずかちゃんの入浴シーンが何度も描かれていました。現在の日本では表現規制がきびしくなり、未成年者の入浴シーンは大幅に規制されています。私たちの表現の自由は大幅に規制されているのです。
もちろん本当に若者を守るためならいいのですが、現実はそうなっていません。たとえば未成年者に対するレイプは後を絶ちません。児童ポルノ法は現実のレイプには効果がないのです。それどころか児童ポルノという架空の犯罪の厳守に大きな労力を使った結果、そうした現実の犯罪が軽く見られてしまう。これは由々しき事態です。
そう、新作の『素晴らしい冒険旅行』を見た人ならみんな気がついたはずです。こんな素晴らしい物語を闇に葬ることのほうがどれだけの罪深いかと……」
しかし法廷ては彼女の意思は顧みらなかった。彼女は何個月も監禁されたうえ、法外な罰金を払わなくてはならなかったのだ。
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