In the Magic

skywrite

第1話 プロローグ

 西暦4000年、地球はいまだ存在していた。2000年前から存在している文明の原型を捉えたまま、世界平和が唱えられた争い無き日常が続いていた。最後の国家間における戦争が終わってから500年の年月が流れていた頃であった。

 争いなきこの世界には、宗教とはまた別に、主に二つの思想をもつ人類がいた。

 一つは、発展し尽くした高度な機械工学の恩恵を受けながら、これ以上の人類の発展を望まないという思想。

 人類の技術が向上しさえしなければ争いは起こらないという信念のもと、人類の約9割がこの思想を持ち続けた。

 しかし、残りの1割はそれとは逆、さらなる人類の発展を望んだ者たちであった。彼らが決して争いを望んだわけではない。彼らもまた、彼ら自身の信念のもと革新を望んだ。

 そんな時代背景の中、代々前者の信念を支持している一家に、1人の少年が産まれた。彼は特異的に頭が良く、異端児とさえ言われていた。

 彼の家族は保守的な思考の持ち主であったが、彼は革新を欲した。今の世の中では文明、また人類は荒んでいくだけだと考えた。そんなことを親に打ち明け、そうと知った親族は彼を家系から追放した。親族らは彼を忌子だと蔑んだ。

 しかし彼は屈しなかった。自分の信念を曲げることなく、人類の革新への道を探り続けた。

 そしてついに、彼はその道を見つけた。革新への第一歩となる、それにしては大掛かりすぎるものを見つけてしまう。

 彼は、地球上の全生命体に、いわゆる魔法という物が使えることが可能だということを発見した。未だ科学者ですら見つけられていなかった生命体の発する電磁波のようなものがそれを実現させた。

 しかし彼もまた、発見したとは言え、それをすぐに使いこなすことはできなかった。

 火、水、風、電気、氷、金属、光、闇。全ての生命体はこの8属性の内の一つの属性に特化した細胞により構成されている。そのため、理論上1人1属性が扱える限界であったが。

 彼は氷属性を使うことができた。初めて使えるようになったのは魔法の概念に気付いてから5年が経った頃であった。

 更に彼は20年の年月を経て、更なる魔法の真髄へと迫った。そしてついに、彼の目標としていたを編み出すことに成功した。このとき、彼は自らの理論をも破り、光属性を扱えるようになっていた。そしてこの魔法も、光属性と彼の魔法の素養によって練り上げられたものであった。

 彼の望みは全生命体の魔法の素養を上げることであった。それにより人類は更なる進化を遂げることができる、そう確信しながら。

 しかし、魔法が生み出したものは秩序を乱す争いでしかなかった。

 確かに人類は新たなるステップへと上がることができた。広く魔法が認知されるまで50年近く掛かったが、その頃には既に、世界平和は崩壊への一途を辿っていた。

 これまで国力として重要視されていた機械工学は二の次となり、最重要視されるものは魔法となった。魔法を使いこなせるものが世界の頂点を目指した。

 魔法使いの中には、国の軍隊すら軽く蹴散らしてしまえるほど強力な者も現れた。そのような者達は各国に傭兵として雇われ、国々は魔法使いによる軍隊を形成させていった。

 予想外の展開に魔法の生みの親ーーーマーシャルは大きく戸惑った。自らの望まない争いというものがこの世に生まれてしまったことを。

 しかし後悔はしなかった。これこそが人類の進化の上で必要不可欠なターニングポイントであるならそれを受け入れるべきだと思った。

 マーシャルは現在最も魔法に精髄している自分が、世界の民に何かやれることはないかと考えた。

 マーシャルはその強力な魔法を扱い、全人類へ念話として囁きかける。この世界規模の戦争を生き抜いた国家には、特別な魔法を教えてやる、と。

 全人類へ魔法により干渉できる人物などこの世には未だ1人しか存在しないということから、マーシャルの発言を人々は皆信じた。

 敗戦国は焦土と化し、電気エネルギーメインの時代は次第と終りを迎えた。


 戦争開始から500年後。元々存在していた200もの国々はいつしか10分の1である20にまで減少していた。消滅した国々は強力な国に吸収されるか、或いは民族ごと殲滅された。

 残った15の国々は一時の休戦協定を結んだ。このままでは人類の文明がただ衰退していくだけだとどこの国々も危機を感じたからであった。200億いた人類は50億にまで沈みこんでいた。

 西暦4000年。国力序列8位の日本に1人の男の子が産まれた。セルシオと名付けられた彼の両親は共に氷属性使いであった。しかし2人とも魔法の素養は高くなく、魔法戦士ーーーましてや傭兵などとは何ら関係のない仕事に就いていた。

 そんな中、セルシオもまたごく一般的な魔法の素養しか持っていなかった。属性は氷、戦闘にはあまり向かない属性故、軍隊に所属する魔法使いにもほとんど氷属性使いはいなかった。

 彼もまた両親のように平凡な人生を送るものだと思われていた。ある事件が起こるまでは。

 休戦協定中ながら、日本の軍隊から追われていた敵国からの諜報員と鉢合わせになったセルシオは人質にとられてしまう。

 自分はここで死に終わるのだとあっさり考えてしまったセルシオは抵抗をしなかった。国のためなら自分の命など惜しくはないとすら思っていたのかもしれない。

 しかし諜報員は動けなかった。数メートル離れた位置にいる魔法使いにより動きを完全に阻止されていた。体全体を凍らされ、吐く息は白く、セルシオを掴んでいる腕は凍てついていた。

 氷属性使いであった。その魔法戦士は氷属性魔法により諜報員をその場で一瞬にして凍らせ、身動きを封じたのであった。

 セルシオはその時勇気を抱いた。同じ氷属性使いであっても、これほどまでに強い人がいると初めて知った。それからセルシオは魔法戦士を目指した。

 日本で1番の難関校と言われる魔道士学園への入学を決意した。この学園への入学条件はとてもシンプルなものであった。6歳から22歳までを一貫して育成させる国営機関。入学試験は6歳にしてどれほど魔法の素養が高いか否か。

 魔法の素養は一般的に遺伝によるものが大きい。しかし厳しい鍛練やによって大きく跳ね上がる可能性もある。

 セルシオはあの一件を機に魔法の素養が跳ね上がった。しかし元が平凡的なものであった故、入学こそできたものの入学者1000人中最下位付近の力でしかなかった。

 学園で対人での実技が行われるのは12歳から。しかしその頃には既に、セルシオの素養は平均値近くにまで上がっていた。

 6年間で大きく上昇した魔法の素養は一般人からすれば驚異的な物でこそあるものの、魔法戦士相手では決して誇れるほどのものでもない。

 12歳以降、セルシオの素養が大きく上昇することはなかった。それが彼の限界点に近かった。

 決して最強でこそないものの、セルシオは屈することなく鍛錬を続け、学園を卒業する際は上位4分の一である250位の成績を取ることができた。

 卒業して一ヶ月。念願の魔法戦士となった彼に、初めての仕事が与えられようとしていた。

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