10: floating like, you know, as if nothing had happened

 家に帰ったら浅彦が来てた。ウチの親は浅彦を知ってるから俺がいなくても勝手に通しやがる。

「お、新介。お邪魔してまーす」

「てめえ勝手に机とか見てねえだろうな」

「見ねーよ。ナニ、なんかオカズとか隠してるわけ?」

「別に」

 俺はそう言いつつ机の一番下の引き出しの鍵が閉まってるのを確認した。クラスでネタ回してる連中とかいるけど、俺はそういうの生理的にダメ。

「で、なんの用だよ」

 ブレザーを脱いでハンガーに掛けながら俺は聞いた。俺って割と几帳面だから、制服とかその辺に脱ぎ捨てたりしない。

「ん、別に用とかじゃなくて、単純に。顔見たくて」

「キモイこと言ってんじゃねーよ」

 浅彦は、何がキモイの? みたいな顔してる。こいつ、多分普通よりなんかがズレてる。

 俺達はしばらくクラスのこととか話した。いや、なんか割と俺が一方的に話しちゃってたかも。浅彦は特に面白そうにもつまらなそうにも見えなくて、勝手に自分が持ってきたおにぎり食ってる。

「おまえさ、なんか話しに来たんじゃねーの? さっきから俺ばっか話してね?」

 浅彦はくわえてたシーチキンをぼとっと落とした。それから首を傾げながら拾って食った。汚ねえ奴。

「だから、別に用があったんじゃないんだけど」

 ホントかよ。なんかこいつ、いつもよりなんつーか、ふわふわしてる。

 俺らよく考えたらあんまマジな話とかしたことない。浅彦って、考えてんのか考えてねえのか全然わかんねえ。でも最近、実は前者でわざとアホなふりし てんじゃないかと思ってたりもする。

「俺帰るわ」

 いきなり、浅彦は鞄を掴んで立ち上がった。俺はビックリして奴を見上げた。 「なんだよ、急に。俺なんかやべえコト言った?」

「別に。そーじゃねえよ」

 なんて言ってるけどもう階段降りてる。なにこいつ。

「なあ、なんだよ、気になんじゃん。どーしたよ」

「だからなんでもねーって。あ、おばさん、お邪魔しましたー」

 結局俺は引き留められなくて、浅彦はそのまま帰った。

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