09: roll it over, imma leave here

 久しぶりに会った掛川さんは随分痩せてた。ってか、やつれてた。

 学校来たらみどりが半泣きで掛川さんが辞めるらしいって言ってきて、ビビって会いに行ったら、やっぱりあの人はニコニコ笑ってた。

「なんでだよ、先生。親父さんと先生は関係ねえじゃん」

「いや、別に彼のせいじゃないよ。前から考えてたことなんだ、そろそろ八木先生の産休も終わるしね。今回の件でふんぎりがついた。本当に、彼のせいじゃないんだ」

 掛川さんは実の父親を彼と呼ぶ。

「みんなビビるぜ。女子は泣くだろうし」

「勿論みんなと離れるのは辛いけど、もうここにいてもしょうがないって思ったんだ」

「ここにいてもしょうがない?」

「うん」

 悲しげに笑いながら掛川さんは頷いた。俺は言葉が返せなくなって黙り込んだ。妙にひっかかる。それに掛川さんはなにか別のことを言おうとしてる気がする。結局それを聞き出せないまま、俺は教室に戻った。


   ◆ ◇ ◆


 放課後、校舎裏で意味もなくぼーっとしてたら吉田が来た。こいつはサッカー少年だ。最近マジウザい。

「天井ってさー、運動神経いいんだからなんか部活やったら?」

「団体行動できねえんだわ、俺」

「じゃあさ、陸上とかは? 結構向いてるんじゃない?」

 ウザ。

「そういや掛川って辞めんの?」

「あー、みたいだね」

「おまえ仲良かっただろ? なにが原因なの?  結婚とか?」

「知らねえよ。飽きたんだろ」

 自分で言ってビビった。先生は飽きたのか? ここにいるのに飽きたのか? だから別の場所に行くのか?

「じゃ、俺練習行くわ。また明日なー」

 浅彦はどうだったんだろう。


   ◆ ◇ ◆


「あれ、新介今日バスなの?」

 半分寝たままバスから降りたらみどりが声をかけてきた。わざわざダチの輪から外れてだ。連れの女共はちょっとした羨望みたいな視線を送る。こいつ、 ぜってーそれ狙ってんだ。

「この前もバス停いたよね。電車やめたの?」

「え」

 睡魔がどこかに消えた。頭が妙に冴えてくる。

「だってずっと電車で……あ」

 みどりははっとして口元を押さえた。

「ご、ごめん。気にしないで」

 そう言ってみどりはダチの方へ戻っていった。なんだ?

 気になったので俺は昼休みに食堂でとっ捕まえた。

「え、なんでって......」

 お嬢さん、目が泳いでるぜ。

「あのさ、駅で浅彦のことがあったからさ、やっぱもう電車には乗れないんだろうなって思って……」

 俺は目をまん丸にしたまま動けなくなった。

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