8. 名乗り
お
儂らにとって運がよかったのは、蔵の鍵を取りに行ったら、おっ
兄様たちは村へ散って、皆に家から出るよう説得に走った。あとから知ったが、これは到底間に合わなかったらしい。
ともかく、儂らはおっ
神になる娘は、干し蛇のご神体に恭しく平身して挨拶を済ませると、次に蔵を開けてみさんご様を拝んだ。
みさんご様というのは、二本の髭を生やした海蛇の神様でな。
夏至祭の日には、黒染めの布と緋染めの刺繍糸で
重くて二人じゃ動かせんから、みさんご様の頭だけ儂とおっ
娘は袖付きを脱いで深紅の
そして、おっ
約束したのは儂だったからな。
「みさんご様が
「ない!」
「ならば、みさんご様が
ばきばきばきどん!
音がして、ちぎれた木っ端や板子や、舟が降ってきた。浜のあたりをふと見れば、真っ黒な空から細長い舌みたいな雲が垂れ下がって、風とともに舟や網を巻き上げておった。浜小屋がやられたんだ。
おぉぉぉおおおーん、おぉぉおおぉおーん、とな。風が山犬の遠吠えのように唸っておった。
おっ
「あ、新たな神となる者よ! 何者なるか、なを、名を告げたまえ!」
化け猫娘のほうは実に堂に入っておったよ。
「我は人の身に猫を
こん時、みさんご様がぶるっと震えて、蔵の中から風が吹き抜けた。
「
そして、化け猫娘は砂浜色の髪を震わせ、叫んだよ。
「おいでませ! みさんご様!」
儂の長い一生のなかでも、神様のお姿を見たのなぞ、この一度きりだ。鈍く輝く、赤黒縞の大きな海蛇の首にひらりと飛び乗ると、娘が裂帛の気合いを発した。
「リィィィーーールーーーー!!!」
頭から首から背中から腕から、真珠のように真っ白な毛を吹き出して、二柱の神様が天舌の暗い雲へと空を昇っていったよ。
ああ、やはり手の届かんモノだった。
稲光の空を見て、儂は涙が止まらんかった。
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