7. 天舌
偽の落雷と言ったが、この時はそんな事は微塵もわかっとらん。まさに青天の霹靂で、何事かと見まわすと、防風林を透かして見える水平線にな、伸ばしたソバ粉のようにのっぺりとした、黒い雲がかかっておった。
見たことのない雲だが、雲が光ればいちおう遠雷が届くし、理屈にゃ合わんがさっきの音もあの雲からかと勘繰った。
空気も急に
「笠の神様すごいなぁ。でも困ったな、まだなんの準備もしてないや」
眉尻を下げて娘が言った。そりゃあ嵐は困ったもんだが、娘が言ったのはどうもそういう意味ではなかった。
「
娘は右目を手で覆って、ヒトの左目で雲を見ておる。
儂はどういうことなのか尋ねた。
また、どかん、と肝が冷えるような落雷の音がする。
「これ、モノの怪の声なんだ。
だんだんに空も陰ってくる。
「わたしのお腹には厄介な居候がいてね、そいつを追い出すために
娘は不愉快そうに口の端を歪め、こう続けた。
「モノの怪の王様だからね、龍は強いよ。ふさわしい対価を受け取って、仕事として背負えばこっちも強くなれるんだけど、あっちが来るのが早いね」
言い終わるなり、娘が儂の手を取って
「何って、逃げるんだよ。きみには『明日も生きる』って選ばせちゃったし、今日死なせるわけにいかないもん。
それは飲める話ではなかった。嵐になれば、みな家に籠もるにきまっとる。おっ
そうこうするうちに、ひゅうひゅうと風も鳴り出してくる。あまり時間があるようにも思えん。
「対価がありゃ勝てるんだな!?」
娘は訝しげに頷いた。儂はこのときに作ったのだな、化け猫に百年の借りを。
「そんなら、あんたを神様にしてやる!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます