2. 牛の怪
真っ昼間で暑くてな。
長いこと薄暗い蒸し暑い狭っくるしい家の中に居ったもんで、おかしな話だが儂は「ああよかった」と思ったよ。
村の皆が病に伏せて、夏至祭もできんかった。おっ
そしたら、どすんと何やら重たい音がした。
なんぞと思って音のした方に目をやっても、ニセトウキビが邪魔でなんも見えん。さがって、土の盛り上がった所に登ったら、赤牛の
横倒しんなって、舌がだらしなく垂れとってな。もうだいぶ腐れて
牛がこっちを見た。
横倒しのまま、ぎょろんと目玉だけが動いて、涙粒みたいに蛆を垂らしよる。
儂は腕から脚から血の気が引いて、それでも、気のせいに違いない、きっと本当は動かなかった、そう思いたくて赤牛の骸から目が離せんかった。そしたら、首やら胴やらを
だすん。
骸が進むたびに頭がニセトウキビをなぎ倒してな。
だすん。
だすん。
だすん。だすっだすっだすっ。
逃げようとしたが、脚が動くのを忘れたようになって、腰が抜けた。もうだめかと思った、そん時だったよ。
「逃げないでね?」
と声がして、
こんぐらい、いやこんぐらいだったか、とにかく大きくて平たい笠だ。前が見えんくなって、慌てて笠を上げたら五色の布がひらひらして、その向こうで赤牛の骸に化け猫が喰らいついとった。
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