化け猫まつり

帆多 丁

1. 開幕 - おおさじ語り

 島のおお祭司さじは、百二十歳を超えているのだそうだ。


ワシがモノのの血を飲んだのは、タチの悪い病が流行って、夏至げしまつりが出来んかった年だな」


 そう話す背は曲がり、声もいささか小さい。籐の座椅子に収まる姿はしぼんだ置物に見えるが、話す言葉は聞き取りやすく、他の集落で見たよわい八十の長老と変わりなく思えた。


「高い熱が出て腹を下す病で、休みゃあ治るが、治ったと思うとまたやられる」


 ざんざん、ざら、ざんざん。

 ぼうおう、ぼおうおう。

 どんどろどろん、どんどろろん。


 外では大風たいふう棕櫚しゅろの葉を鳴らし、珊瑚岩の石垣に唸り、漆喰で固めた屋根に吠えている。

 私にとっては未体験の荒天を「大した事ないわい」と古老は語りを続ける。


「さて、学者先生よ。流行り病の最中だ。子供は外に出るなと厳命されておったが、おっ父様とさもおっ母様かさあにたちも寝込んでしまった。その頃の儂はまだ十二歳に届かんで、一人で漁に出るのを許されておらんかった。それでもやまぱらに入れば何か食える物が採れるだろうと、ナタ持ってこっそり抜け出したのよ」


 雨風あめかぜの唸りに合わせて、電球の明かりが頼りなく明滅する中、私はペンを走らせ書き留める。彼女に返すべき物語を。


「それで儂は、あの奇妙な化け猫に行き遭ったんだ」

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