艶やか

夕華

序章 初めまして

 私、松前花まつまえはなには秘密がある。

 それは自宅に私以外、誰もいなくなった日。

 玄関のチェーンをかけて、リビングや他の部屋を見回り、鍵がしっかり掛かっているか確認をする。泥棒が入ってきたら大変だ。戸締まりは完璧にしなければいけない。

 やがて確認し終わると、私は階段を上がって自室へと向かう。もうすでに始まっているが、まだ……まだ我慢しないと。

 内腿を擦りながら階段を歩く。そしてようやく部屋にたどり着くと、内側から鍵をかけた。これで準備万端。誰にも邪魔はさせない。

「あぅ……んんぅ……」

 部屋の中に誰かの声が響く。私の声。

 初夏の昼下がり。静寂した空間ではしたなく私は喘ぐ。下部を下着の上から擦り、数分も経たない内にくちゅりと水音が聞こえ始めた。

 それが合図となり、弄る指先は誰に言われるわけもなく下着の中へ這う。

「ふぅ……うぁっ……」

 下唇を噛み締めて、それでも声が止められない。くちゅくちゅと。場に似つかわしくない水音だけが部屋に響く。

 このままだと下着が汚れてしまう。今更だけど、ぐっしょりと濡れた感覚は気持ち悪い。弄る指を止めて脱ぐと、透明な糸が引いて垂れた。それは私の指にもまとわり付いていて、舐めてみると苦くて美味しくない。

 それでも私は一心不乱になって舐め尽くす。

 ぼんやりとした思考で再び弄っていると、脚を開いていることに気付いた。だらしなく大股を開き、物欲しそうにひくひくとさせている。

 指だけじゃ満足いかないんだ……。

「はぁっ……だ、誰かぁ……」

 懇願するように声をもらし、ベッドの上に横たわりながら下部を愛撫する。どれだけしても足りない。私を埋め尽くす虚無感は消えてなどくれなかった。

 ぐちゅりと水音が激しさを増し、喘ぐ声も自然と大きくなる。このままじゃ私は壊れて──

「うぅ……ゆ、優太……」

 泣き声にも似た声音で呼んでも届かない。ここには私しかいないのだから当然だ。

「優太ぁ……優太ぁ……」

 どれだけ泣き叫んでも願いは叶わないというのに、私は名前を呼び続ける。そうして水音をぐちゅぐちゅと響かせ、息遣いが荒くなっていくと私は笑みを浮かべた。歪んだ笑顔。

 誰に見せるものでなく、ならば笑顔の意味を知る人はどこにもいない。私自身にも分からないでいた。なぜ笑うのか? 嬉しいから? 違う。楽しいから? 違う! ……あぁ、やっとで解放されるからだ。

「ああッ、あっ、あぁぁァッ!!」

 叫び声と共に下部から透明な液体が溢れ出て、その瞬間に全身から激しい脱力感を感じた。

「はぁ、はぁ……んぅ」

 指を綺麗に舐め回して、汚してしまったシーツを洗濯しに部屋を出る。

 今日は晴れて気温も高いからすぐに乾くはず。

「んっ、誰だろ?」

 洗面所へ入ろうとした時、自宅のチャイムが鳴らされて、仕方なく私はシーツを持ったまま玄関へと向かった。

「えっ!?」

 覗き穴から姿を確認すると、そこには小さい頃からの幼馴染み。

 姫川優太ひめかわゆうたの姿があった。

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艶やか 夕華 @chi0801caca

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