1-3.夢の迷い子伝説
『【夢の迷い子伝説についてのまとめと考察】
夢の迷い子伝説は、ヨーロッパに伝わる
対して夢の迷い子伝説では、子どもがある朝起きると突然、取り替わったのではないかと思われるほどに人が変わるという伝承だ。その子どもたちに共通する証言は、"迷子を助けてもらった”、"楽しい場所に案内してもらった”という平和な夢。不思議な夢を見ることと人が変わったようになることの関連性は不明だが、夢の中で迷子になることから"夢の迷い子伝説”と名付けられた説が有力である』
やはりあのおじさんとは関係なさそうだが、つい読みふけってしまった。和風ホラーのような雰囲気がどことなく不気味だ。考察も続けて読む。
『夢の迷い子伝説では小学生以下の子どもたちが主に対象とされている。この年代の子どもは外的刺激に過敏に反応しやすく、親も気づかないようなところから様々な情報を得ている。感受性の高い子どもに多いと見られており、児童心理学者によると──』
一応検証はされているのか? 小難しい話をざざっと読み飛ばして最後のほうまで到達した。
『ちなみに、迷い子を助ける案内人は子どもの、保護者に対するイメージの具現化だとする意見もある。しかしこれには否定派が多い。親の体格や性格、母子家庭や父子家庭に関わらず似たような特徴を挙げる子どもが多いことがその根拠とされる。また、さらに不思議なことに、数人の子どもは案内人について同じ名前を口にする。大きくて変な形の帽子を被った顔の白い男。ミスターレーブ、と』
ゾッとした。完全にあのおじさんじゃないか。『ミスターレーブ』とは、Mr.レーヴのことに違いない。伝承の中の人物が目の前にいたというのか。信じられない話だ。怪しいだけのおじさんが不気味な男にランクアップした。いや、むしろランクダウンか。
「てか何? あのおじさん人間じゃないってこと?」
静かな部屋で一人呟く。子どもたちの夢に現れて攫っていくって完全に生身の人間の所業じゃないよな。
待てよ、もしかしたらあのおじさんがこの伝承を模倣しているだけかもしれない。そうだ、そっちのほうがよっぽど信じられる。こんなマイナーな伝説を真似して何がしたいのかは分からないけど、もともと変なおじさんなんだからそのぐらい有り得るだろう。
昔は口裂け女とかの真似する人がいたみたいだし、都市伝説的なノリなんだろう。あまりにもコアなファン向けだけどさ。
ほっとして大きく伸びをする。ひとまず解決? したし、またごろごろしていよう。この夏はほとんど外に出ない予定だしもうおじさんに会うこともないだろう。おじさんめ、引きこもりなめんなよ。女子より白いと言われたんだからな。別に嬉しくもないけど。
「ふわぁ、眠た……」
そういえばおじさんの肌も真っ白だったなぁ、と思いながら横になる。あそこまで白いと人形みたいだよな。
**
いつの間にか眠っていたようで、目が覚めると辺りは暗くなっていた。まじかよ……今何時だ? 真夏にこの暗さはかなりの時間だろうと思ったが、寝る前まで触っていただろうスマホが見当たらない。時間はともかくスマホどこやったっけな。
「史織ー! ちょっとスマホ鳴らしてくれー!」
呼びかけながら部屋を出た。あれ、帰ってないのか?
「史織ー? 史織!」
そろそろ帰ってきているはずなのに。どうしたんだ? 心臓が早鐘を打つ。史織に何かあったら俺は耐えられない。これ以上失うわけにはいかないんだ。
慌てて部屋に戻ってスマホを探す。
「くそっ、どこに……」
あるとしたらこの部屋のどこかだ。
「──あった!」
すぐさまLINEを確認する。充電は少ないがメッセージの受信に影響するほどではない。家族のグループトーク画面を開く。
Shiori:[雨が酷いから今日も泊まっていきなって言われた! もう一日良い?]
Siori:[やった! 母さんも気をつけてね!]
「良かっ、たぁ……」
ガチガチになっていた肩の力が抜ける。あまりのことに気づいていなかったが、そとはかなりの大雨だ。昼間は晴れていたのに。やっぱり異常気象って感じだな。この辺りは洪水が多いから気をつけないと。
「『了解、2人とも気をつけてね』っと。よし」
とりあえず飯食って風呂入るか。なんだかどっと疲れた。
奇術の夜 伊月香乃 @tale_text
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