灰の中の種火

 荒地にある闇に包まれた黒い城。その正面には大量の魔物達や異種族が跪いていた。その先には赤黒い炎を纏った何者かが玉座に座る。


「アリサ・ネーナ、前へ」


 その赤黒い者が呼ぶと、魔物の軍勢の中から一人、黒い鎧を着た少女が共に前へ出る。背には少女には似つかわしくない巨大な黒い斧が背負ってある。その存在に他の魔物達も恐れ慄く。


「パルクス様、お呼びでしょうか。」


 銀色の長い髪をたなびかせる少女は、その燃えるような赤い瞳を主人へと向ける。


「転生者がこの世界へ侵入してくるようになって数年。"パンドラの遺体"をめぐる争いで私の仲間達の多くもやられてる。これ以上仲間を失うわけにはいかない。私が受け継いだ力を少しだけ貴女に貸す。その力を使って異世界転生者を全て殺しなさい」


「全て……捕虜は?」


「必要ないよ。この楽園を汚す神ごときの使いなんて、全部殺して」


「かしこまりました。全て殺します」


 跪いたアリサの身体に主人の手から出た赤、金、青、緑の光が入っていく。


「行きなさいアリサ。魂の導く場所へ。そしてパンドラの遺体を探し出すのです!」


「導かれるままに。タスク!」


 アリサが呼ぶと同時に足元の影から巨大な闇と共に二本の牙が生えた黒い馬が現れた。その馬に乗りアリサは荒野へ駆け出した。


 酒場の街ゴールドバース。そこは様々な種族達が商業を行う活気ある巨大な街。その中にある酒場の一つ、メリーランド。人気のある酒場であり、その日も多くのエルフやスライム、獣人族達が賑わいを見せていた。そんな中、店に突然悲鳴が上がった。


 鳥の足と上半身が女性、手が翼になっている半獣人ハルピュイアが、鎧を着た青年に捕まっていたのだ。


「すごい!本当にハルピュイアだ!」


「おいやめろ転生人!」


 周りの客が止めようとするが、魔法で弾き飛ばされてしまう。


「あっ、興奮してすみません。私攻撃されそうになると自動で魔法反撃する力を神様にもらってまして。ハルピュイアさん、ごめんなさい。」


 男が頭を下げた途端、凄まじい衝撃で店の外へと吹き飛ばされた。店内にいたアリサが蹴り飛ばしたのだ。


「うっ、ぐっ。魔法反撃が出なかった!?なんだ!?」


 店の外でよろよろと立ち上がる彼は、店の中から出てきた黒い女騎士に戦慄した。周りの獣人達は口々に彼女の名をつぶやき安堵の表情を浮かべた。


「貴方、転生者ね。」


「なんだお前!?魔王の手先かっ!」


 彼が剣を構え、アリサを見据えた。剣先は震えており、この世界へ来たばかりの新参者だと分かる。


「神の手先が。死ね」


 アリサの背中にある柄の長い巨大な長斧を構えた途端、街の者達は家屋の中へ避難し、町中が戸を閉めたのだ。その細身と細腕に似つかわしくない長斧は黒々と闇を纏う。


「な、なにが起きた!?」


「貴方、名前は?お墓に刻まないといけないの」


「黙れ!うぉおりゃああ!」


「ダマレさんね?わかったわ」


 剣を構えて駆け出してきた彼に向かい、私は斧をすくい上げるようにぶち当てた。その瞬間ダマレの鎧も骨も体も砕け空高く舞い上がる。


「ゲボァ!?」


 アリサの手から雷の弓が現れ、雷の矢を構える。


「片付けた転生者はこれで48人目。その中でダマレって名前の人は17人目。」


 放たれた矢は空に吹き飛ばされた男の身体を打ち抜き、瞬時に黒焦げの炭にしてしまった。その鮮やかな殺し方に町中から拍手が湧き起こる。そんな様子を気にもせずアリサは左薬指の指輪へ話した。


「ご主人様、メリーランドの新参転生者を片付けました。しかし雷の弓の威力が強すぎてお墓に入れる遺体が残りませんでした。申し訳ございません。」


「構わないよ。そのまま続けて。東大陸に出たっていう勇者候補とかいうやつは私自ら殺したわ。今はナーガちゃん達の餌になってる。見る?」


 指輪から脳内へ直接その様子が流れてくる。


「うわグロっ。ああ、恐ろしいお方です。強い神の加護を受けた勇者を簡単に殺すとは。貴女こそこの世界を統べる存在。」


「お世辞はいいから、そのまま西側をよろしくね。神よりも先に、パンドラの遺体を見つけ出すの。」


「かしこまりました。それにしても、転生者はダマレという名前が多いですね。」


「おバカ……」


 新たな世界で、パンドラの遺体と呼ばれる物をめぐる闇と神の争いが起きていた。


 第二章「私、異世界転生者を皆殺しにします。〜チートも加護も無力です〜」


 近日公開

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私、人間を裏切って異世界を燃やし尽くすことになりました。Remake ver 風来坊セブン @huraibo1201

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