第6話

 誰かが泣いている気がした。

 胸が騒めいて息苦しい。

 僕を求めて泣いているのは、誰ですか。


「今、何時なんだろう。僕はどこを歩いてるんだ……?」


 時間の感覚が全くない。この暗闇に閉じ込められて何時間が経過したのかも分からない。下手をしたら一分かもしれないし、一週間、一か月経ったのかもしれない。

 この状況が夢なのか現実なのか。はたまた、天国なのか地獄なのか。僕には知る由もない。


「はぁ……」


 無暗に歩き続けて疲れた。足を止めてその場に座り込む。疲れた感覚も、座った感覚も確かにある。

 床を手で触ってみると、ツルツルとしていて触り心地が良い。


「タイルかな?」


 どこを歩いても障害物はなかった。感覚があるから現実かと思ったが、現実にこの広さで物が置かれていないのは不自然だ。

 取り敢えず寝そべっても大丈夫だと手探りで確認し、手をついてゆっくり後ろに倒れた。浜辺やベッドに寝転んでいたときはふわふわしていたのに、タイルみたいなここの床は少し痛い。

 右腕で顔を覆って目を休める。


「なにも聞こえない」


 ベッドに寝ていれば、リビングから生活音が薄ら聞こえた。

 浜辺で目を瞑れば、漣の音も鳥のさえずりも聞こえてきた。

 でも、ここには音がない。孤独を埋めるなにかが欲しかった。責めて、音が欲しかった。

 この際人の声でも不快音でも良いから音が聞きたいと思った。そのとき、ふとあることが頭によぎった。


「そう言えば、あの人魚は今日もあの洞窟でハープを奏でているのかな」


 人魚が奏でるハープの音色をもう一度聞きたかった。できることなら話してみたかった。

 実の母より先に人魚のことを考えてしまうなんて、この暗い世界が生と死の境とか、天国や地獄だったら僕はかなり親不孝ものだな。

 それでも人魚のことを。エルザのことを考えてしまうんだ。あのミント色に輝いた瞳を間近で見てみたい。絹のような金色の髪に触れてみたい。


「寝ても良いかな? 目を開けても閉じても辺り一面真っ暗だし良いよね?」


 誰かに話し掛けるように気を紛らわして、許可も下りていないのに意識を手放そうとした。

 僕は夢を見ることに期待したんだ。普段からあまり夢を見なかったけど、少しでも明るい世界を見られる気がして眠りについた。

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