第27話弟子の話

「あー」

 俺は、変な声を出していた。

 俺たちと戦ったセシルが、サモナーが弟子にすると宣言してから一か月。俺は、セシルの指名手配を外してもらうことに奔走していた。一度、敵対しているセシルを保護するというのはものすごく面倒であった。だが、俺たちがセシルとその魔力提供者共々を監視および指導することで何とか決着がついたかたちだ。

「すみません……こんなに面倒なことになるなんて」

 サモナーの言葉に、俺は苦笑いを返した。

 べつにいいのだ。

 俺も同じだったから。

「ユキさん……僕が魔法使いになったころ、魔法使いは僕しかいませんでした」

 サモナーは、ぼそりと語りだす。

 あまり、聞いたことがないサモナーの人生の話だった。サモナーは魔力が生まれながらに強く、とても幼い時に先代の魔法使いに弟子入りしたらしい。あまりに幼い頃に弟子入りしたので、サモナーは実の親の顔すら覚えていないらしい。彼の師匠はサモナーを引き取った当初から、とても老いていたらしい。サモナーの師匠は、サモナーが一人前になる前に自分の寿命がくることを恐れていた。

 それでもサモナーと魔法の相性はよくて、なんとかサモナーは師匠が寿命を終える前に一人前の魔法使いになることができた。そして、自分の師匠がなくなってしまうとできるだけ早くに弟子をとった。自分の師匠と同じような恐れを抱くことが嫌だ、とサモナーは語っていた。魔力が高い弟子を引き取ったサモナーだったが、彼を一人前になる前にサモナーは殺されてしまった。

 短い、とても短い一生であった。

 それでも、サモナーはそれを後悔していない。

 それよりサモナーが気にしていたのは、魔法のこれからのことであった。

「僕は弟子をとることができましたが、それでも魔法はいつかは消えると思っていました。弾圧もされていましたし」

 昔を懐かしむように語る、サモナー。

「魔術を作ったのは、魔法が消えても技術は残るようにです。でも……思ったより早く私も死んでしまいました。でも、フィアナが私の技術を伝えてくれた。あんなに長生きしてくれた。セシルは、僕が考えもつかなかったような魔術を生み出してくれた」

 サモナーは、微笑む。

 とても、穏やかで幸せそうな微笑みであった。

 だが、急に、思い出したかのように目を伏せる。

「ユキさん……すみません。すべての元凶は僕なのに、僕ばかりがもらってしまって」

 俺は、出会いの日を思い出していた。

 あの日から、俺たちの日常が変わってしまった。

 異次元人という隣人が、隣にいる日々に塗り替わってしまった。それはかつての日々の中では考えられないような生活であった。危険だし、分かり合えない人間も増えたし、何より騒がしい。もしかしたら、世界の情勢だってもっと不安定になるかもしれない。

それでも、俺はそれが不幸であるとは思えない。

「俺は、変わってしまった日常でもいいよ」

 いいや、違う。

「変わってしまった日常がいいよ」


 

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サモナーの弟子 落花生 @rakkasei

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