第2話
とりあえず喫煙所を探すことにしたんだ、僕は。なにせもう、三時間近く吸ってないんだからさ。駅周辺の案内板を見つけると、モアイ像の隣にあるらしかった。いざ着いたのはいいんだけどさ、やっぱり人が多いわけなんだ。駐車場で吸うのとはわけが違ってさ、明らかに浮いちゃってるんだよ、僕だけさ。まるで変質者でも見るような目でじろじろ見てくるわけなんだ、よってたかってさ。もし僕がこのままポケットから煙草でも取り出そうものなら、間違いなくそのまま交番行きだったろうな。仕方なく僕はそこを出たんだ。
どこか人の少ないところを探そうとしたんだけどさ、どこに行ったってそんなところないんだよ。このときばっかりは本当、うんざりしちゃった。駅からある程度歩くと、人通りのすくない路地裏を見つけてさ、ようやく僕は煙草にありつけることになったんだ。夜空に向けて思いっきり煙を吐き出した。そのときの空っていったらびっくりするくらいに明るくてさ、もう0時を回ってるだなんて信じられないくらいだった。同じ夜空だってのにここまで違うものかってさ。星なんていとつも見えなくて、とてもきれいな景色なんてものじゃあなかったけど、一生忘れない景色になるだろうなって、なんだかこのとき思ったな。
とりあえず今日はもう遅いし、宿探しってことになるわけなんだけど、目星はだいたいつけてあるんだ。ネットで調べておいたからね。僕はリュックから、百円ショップで買っておいたマスクを一枚取り出すと、駅前のネットカフェに向かったんだ。
雑居ビルの二階にある店へエレベーターで上がると、店員に泊まりたい旨を伝えたんだ。眼鏡をかけた、なんだかいけすかないおっさんでさ、なにも楽しみなんてなしに生きてるようなつらをしてた。うんざりしちゃうよね、こういうやつを見るとさ。
「失礼ですが、身分証はお持ちでしょうか」
言ったね、彼は。僕はマスクの効果の薄さに辟易しちゃった。こりゃあ先が思いやられるぞってさ。
「持ってないんです、今日は。家に忘れてきてしまって。」
「大変申し訳ないのですが、身分証をご提示頂けなければ、当店のご利用は出来かねます」
「家に取りに帰るにしても、終電は過ぎてしまって、もうどうしようもないんです。なんとかならないですか。もう、くたくたなんです。正直」
「条例で決まっていることですので、申し訳ございません」
奴、しけたつらでそう言った。
「泊まるって言っても三、四時間でもいいんです、少し休みたいだけなので。それでもだめです?」
やつはうなずいた。僕は了承し、エレベーターで一階まで下がると、ビル内のエントランスに座り込んだ。どうやら手当たり次第にってことになりそうだっ、てうんざりしちゃったよ。マスク一枚ぽっちを過信し過ぎたのがいけなかったんだな。
新作(タイトル未定) なまのーと @namanote
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