閑話

みゆからのプレゼント

 いきなりだが、俺には美術の才能がない。絵を描くことは苦手だし、何かを作ろうとしても廃品回収に出すゴミが一つ増えるようなレベルだ。そんな俺だからだろうか?


「この絵の女性はすごく綺麗な人だったんだろうね。この手前にある花瓶があることで儚くもあり女性が美しくも見えるなんてすごいよね!」


 みゆはそう言って感想を求めてくるが、俺にはみゆが何を言っているのか全く理解出来ずにいるのは。


 上手い絵だなとは思うよ? この絵を描けと言われたら絶対に描けないだろうし、こんな色の使い方は俺には出来ない。女性の背景は言い方はあれだが、俺にはグチャグチャしてるようにしか見えない配色である。


「そうだな。なんかよく分からんが凄いと思うぞ?」


「……和哉くん。もしかして、楽しくない?」


「いや、そんなことないぞ! 普段は目にする機会がないようなものを目にするのは新鮮で楽しいぞ!」


 これは俺の嘘偽らざる本音だ。美術館に来たのなんて人生で初めてだし、どの絵を見ても意味は分からないが何となく凄い絵なのは分かる。ただ、それ以外は何も分からないのだ。その絵に込められた思いであったり、情景は悲しいことに今の俺が理解するには早かったようだ。


 今更だが、なぜ俺が今この場所にいるのかと言うと俺の誕生日プレゼントにみゆが美術館のチケットを用意してくれていたので、学校が休みの日にアルバイトも休みを入れてこうして二人で来ているのだ。


「本当に?」


「あぁ、嘘なんかついてないよ。せっかく来たんだから楽しまなきゃ損だしな」


「それなら、和哉くんがもっと楽しめるように色々教えてあげるね!」


「それは助かるな。絵がすごいのは分かるけど、何がどう凄いのかは分からなかったし」


「ふふ。お子様な和哉くんに私が教えてあげるね!」


 それからは、美術館にある絵を見て回る度にみゆが説明してくれる。そのおかげで、さっきまで凄い絵だとしか思えなかった絵も何となくだがどう凄いのかが分かるような気がする。


「絵って凄いんだな……」


「急にどうしたの?」


「いや、このキャンパス一枚の中にこれだけの感情を込めてそれを誰かに理解してもらえるなんて」


「手紙と違って文字は一切使っていないのに、伝えたいことが伝わるっていうのは本当にすごいよね」


 そう思いながら美術館の中を見回すと、この絵の数だけ人の思いがあると考えると美術館はもしかしたら俺が思っていたよりも凄いところだったのかもしれない。正直に言うと、今までは全く絵に対する興味はなかったが、今なら絵の世界というのも面白そうだと思える。


「それでね! こっちの絵だと……」


 みゆもすごく楽しそうにさっきから説明してくれているし、今度はもっと俺も絵について勉強してきたらもっと楽しめるだろうか? そんなことを思いながら順路に沿って進みながら絵を見て回っていく。


「これで最後の絵だね」


「そうだな。けど、この絵はすごくいいと思う」


「うん。私もそう思うよ」


 順路にそって歩いていって最後の絵は二人の男女がお互いに手を差し伸べているが手が少し届いていないような絵であった。それだけ聞くと悲劇的な絵にも思えるが、二人の表情が穏やかなので悲観的な絵には見えない。


「久しぶりの再会を喜ぶ絵なのかな?」


「どうして分かったの!?」


「いや、何となくだけど」


「けど、私は悲しい絵にも思えるかな」


「なんで?」


「だって、好きな人とはずっと一緒にいたいでしょ? 久しぶりってことはずっと離れていたことになるでしょ?」


 なるほど。確かにそういう捉え方もできるのか。確かにそう考えると少しだけ悲しい絵のようにも思えてくる。久しぶりの再会を喜ぶ二人だけど、客観的に見れば可哀想にも思えてくる。


「確かにみゆの言う通りかもな。俺もみゆとなずっと一緒にいたいし」


「!? 私もそう思うよ。私も和哉くんとはずっと一緒にいたいよ」


「みゆから離れていかない限りはずっと一緒にいるよ」


「私から離れたら追いかけてくれないの?」


「!?」


 その時の俺はどうするのだろうか? その状況にもよるだろうけど、俺から離れた方がみゆが幸せになるというのなら俺はその時にみゆのことを追いかけるだろうか? みゆとはずっと一緒にいたいと思うけど、俺よりもみゆを幸せにできる人がいるのなら? 


「ふふ。ごめんね。ちょっと意地悪なこと言っちゃった」


「……追いかけるよ」


「え?」


「今は無理でも、絶対にみゆのことを他の誰よりも幸せにできる男になるからさ」


「!? ……和哉くん」


 本音を言うと、みゆの横に俺以外の男が並ぶなんて想像しただけで泣きそうになった。だから俺が他の誰よりもみゆを幸せにできる男になる。そうすれば、なんの問題もないのだから。


「ありがとね和哉くん。でも、大丈夫だよ」


「?」


「絶対に私は和哉くんから離れることなんてないんだから!」


 あぁ、最高の誕生日プレゼントだ。


 美術館を見て回るのも楽しかったし、最後にこんな事を言ってもらえるなんて本当に最高だ。まさか、こんなに素敵な誕生日プレゼントを人生で貰える日が来るとは思わなかった。きっと俺は何があっても今日という日を忘れることは絶対にないだろう。

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寒空の下で泣いていた彼女を買ったら、幸せになりすぎてしまいました 白浜 海 @umisirahama

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