第11話 あとがき
「ねえ朝倉さん,このジーマスターの副題って,自慰御三家の憂鬱ですよね。大慈院家と小慈院家は分かるんですけど,残りの一つの家って出てきてないですよね。何か気になっているんですけど,もしかして,どっかで中慈院家とか出てきてたんですかね?それとも,もしかして残りの一つは朝倉家だとか?それだと,いわゆる大どんでん返しですよね?」
「朝倉家を,そんな卑しい家系と一緒にしないでください,斉藤さん。話が終わったからと言って,相棒を,そんなに貶めて楽しいんですか?」
「どうもすみません,どうも気になってたんです。やっぱり,出てきてませんよね。残りの御三家。」
「くっくっくっ,やっぱり斉藤さんの目の付け所は,ちょっと違いますね。こんな物語で,そんな細かいことを気にしてたんですか。流石ですね。」
「いやでも,朝倉さん,普通誰だって気になりますよ。サブタイトルですよっ。」
「分かりました,せっかく斉藤さんから頂いた御質問なので,一応答えておきましょう。」
(やっぱり,少しじらして間を置く朝倉)
「答えは次回作で明らかになります!しかも次回作は,アメリカ編です!楽しみじゃないですか,斉藤さん。」
「なんか,まあ,良くありがちなオチでしたね。朝倉さんにしては…」
「そこで注目して欲しいのが,ジーマスターの呼称,アメリカ編ではジーマスターでは意味が通じません。どのような呼称が良いと思いますか,斉藤さんとしては?」
「いや,別に,俺はそんなモンどうでも良いですよ。できれば,普通の呼び名にしてくださいよ,頼みますから。」
「オナニーマンとか,いかがですか。普通でしょ。」
「嫌ですよ,露骨すぎますよ。それじゃ俺は,全米が最も涙した男になっちゃいますよ。」
「オナニスト(選らばれた男たち)」
「いや,映画のように副題付けたからって,そうは変わってないですって。」
「斉藤さん,オナニストは,オナニーマンの中でも優れた者『グッド,ベター,ベスト』の最上級を冠した意味もありますから,私としては一押しなんですが,それでもダメですか?」
「そのもっとも優れたオナニーマンという発想自体が,そもそも俺には理解できません。ダメです。」
「それでは,古式ゆかしく『せんずり家の人』ではいかがですか。和風です。」
「ますますダメです。なんでそれが古式ゆかしいんですか。」
「そこですよ,本編を読んで,そこに気づいて欲しかったんですよ,私は。」
「朝倉さん,すみません,何に気づいて欲しかったのか,俺,全く分かりません…。」
「そうなんです,実は,自慰という言葉は大正時代に造られた造語で,それ以前は,存在しなかった言葉なんです。」
(相も変わらず,人の話を全く聞いてはいない朝倉である。)
「あの,でも,そうすると,大慈院とか,自慰師とか,どうなるんです?話的におかしいことになるじゃないですか。」
「そうなんです,江戸時代にあって,今も通じる自慰行為を示す言葉こそが,『せんずり』なんですが,それじゃ,ちょっと具合が悪いですよね?」
「例えば?どう具合が悪いんです?」
「大せんずり家とか,せんずり師の家系とか。あなたも嫌でしょ,斉藤さん?当て字も難しいですし。」
「まあ,確かに,少しも格好は良くないですね…。」
「それでは,前置きはここまでにして,私,朝倉から,次回作,アメリカ編のジーマスターの呼称を発表したいと思います。」
「えっ,さっきまでオナニストとか,なんか変なこと言って,俺と検討してませんでしたっけ。もう決まってたんですか。」
「当然じゃないですか。今までの話は,斉藤さん,あなたの緊張を解すためのアメリカンジョークですよ。」
(朝倉という奴は,こういう奴なのだから,もはや何も言うまいと,心に誓う悟志だった。)
「さて,アメリカ編の呼称はっ」
(ここで,スマホでドラムロールを流す,芸の細かい朝倉である。)
「マラーマンですっ。」
「何かそれってアリそうですね。俺も案外良いと思います。」
「そうでしょ,マラとは,日本では男性器を表す隠語なんですが,これは仏教における悪魔マーラから来ているんです。マーラとは,煩悩の化身であり,ブッタの瞑想を妨げるために現れたとされていることから,日本においては,禁欲的な生活を求められた僧侶たちを惑わすモノ,その権化であるペニスを指す隠語とされたものなんです。どうです,これなら,アメリカ受けしそうじゃないですか。暗い影もありますし,ミステリアスなアジアンテイストもばっちりですよ。まさに,ニューアメリカンヒーローの誕生じゃないですか。」
「あの,次回作があるとしても,アメリカ編であって,アメリカ向けに作成するわけじゃないと,俺は思うんです。ちょっと違いませんかね,朝倉さん?」
「いいえ。私は,元からハリウッドを視野に入れて活動しているつもりなんですが。それぐらいの方が人生楽しいですよ。ちょっと視野が狭すぎるんじゃないんですかね,斉藤さんは。」
(朝倉に,この日本は狭すぎるのであろうと,同情を禁じ得ない悟志であった。)
ジーマスター(自慰御三家の憂鬱) 七聖 @hakuzan7
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