第5話 友達

中から現れたのは、長い銀髪をツインテールにしたホワホワとした雰囲気の美少女だった。某世界的ボーカロイドを銀髪にしたような感じをイメージしてもらうと近いと思う。


「パパ、おかえりなさい!」


そう可愛らしい声で言って、ボルドーさんとハグをする。鈴を鳴らしたようなとはこういう声を言うんだというのを実感させられた。


(こういうところは外国人一家らしいな。)


そう思いながら眺めていると、彼女が僕に気づいたようだ。


「パパ?この人は?」


「あぁ、紹介するよ。ワタシの命の恩人、ソータだ!ソータ、この娘はワタシのムスメのサラだよ!」


「そんな大袈裟な…。」


そう呟いていると、サラさんが自己紹介してくる。


「沙羅・ナイト・ハートです!ソータ君、よろしくお願いしますね!詳しい事情は分からないけど、パパを助けてくれてありがとうございます!」


「どうも、坂本蒼太です。こちらこそよろしくね。えっと、沙羅さんのお父さんを助けれたのは偶然だから、気にしなくていいよ。」


「いえ、どんな形でも、パパが助けてもらったと言ってるのであればそうなんだと思います!だったら、ありがとうの気持ちしかないですよ!」


こういうところは親子なんだなぁってのを感じられた。


「どういたしまして…で良いのかな、沙羅さん。」


「それで良いんですよ!あ、私のことは沙羅って呼んでください!」


そう言って彼女は天使のような笑みを浮かべる。


「じゃあ、僕のことも蒼太で良いよ。」


「分かりました!ソータ!…ふふっ、距離が縮まった気がします!ソータ、良ければ私と友達になってください!」


「え?まぁ、良いけど…。じゃあ、よろしく?」


「はい!よろしくお願いします!」


そう言って屈託なく笑う彼女に見惚れてしまったのは仕方ないだろう。


沙羅と打ち解けたところで、空気を読んで黙ってくれていたボルドーさんが話に入ってくる。


「ソータとも無事に仲良くなれたみたいで良かったよ。ソータとサラは同じ歳だからコッチで友達になってくれて助かるよ。」


「はい!ソータは良い人ですよ!私、ソータと友達になれて嬉しいです!」


そうやってはしゃぐ彼女はまるで天使のように可愛かった。


「それじゃあ、ワタシはディナーの準備をしてくるよ。」


そう言ってボルドーさんはキッチンの方へ向かっていった。


「それじゃあ、こんなところじゃあれですし、私の部屋に行きましょう!」


2人で沙羅の部屋に移動する。

沙羅の部屋は、正しく女の子といった感じの部屋で、明るい色調で飾られ、ベッドの上にはぬいぐるみが置いてあった。ファンシーな感じだ。


僕が部屋を眺めていると、


「恥ずかしいのであんまり見ないでください…。」


確かに女の子の部屋をジロジロ見回すのも失礼なので、慌てて沙羅の方へ顔を向き直す。

空気を変えるためにふと浮かんだ疑問を聞いてみる。


「僕なんかが初めての友達で良かったの…?」


自嘲気味になってしまったが、慌てていたので咄嗟に普段の内気な面が表に出てしまった。けれど、彼女はお気に召さなかったようで、


「私が嬉しいから良いんです!…それとも、私と友達になるのは嫌…でしたか…?」


そんな風に泣きそうな顔をされてしまった。こうなっては、もう断るようなマネは出来ない。これで断れるやつは人間じゃないと思う。


「いや!全然!嬉しい!嬉しいから!」


慌てて釈明する羽目になったが、すぐに笑顔を見せてくれたのでホッと胸を撫で下ろす。


「なら良かったです!ところで、同い年って言ってましたけど、ソータはどこの高校に通ってるんですか?」


「僕?僕は神守学園だよ。」


「神守ですか!?私もそこに通うことになってるんですよ!」


「うん。ボルドーさんから聞いてるよ。と言っても、僕は5月の初めからだけどね。」


とても嬉しそうに沙羅は言ってくるが、僕も同じ転校生なので上手くやっていけるかという不安はあった。そんな状況で同じ学校に通う生徒とあらかじめ仲良くなれたのは運が良かったと思う。


「私はその少し後くらいになりそうです!入学したら、学校でもよろしくお願いしますね!」


「うん。それまでに学校のことを覚えて案内出来るようにしとくよ。」


「それは楽しみですね!」



沙羅と話し込んでいると、ボルドーさんがやって来た。


「2人が仲良くやれてるみたいで嬉しいよ。さて、準備が終わったから、ディナーにしようか!今日はソータも一緒だからね!豪華にしてみたよ!」


リビングに行くとテーブルの上には豪華な料理が所狭しと並べられていた。どれも非常に美味しそうだ。


「それじゃあ、ソータ、今日は助けてくれてありがとう!おかげでサラにも新しい友達が出来た!こんな素晴らしい人に出会わせてくれた神様に感謝します!…素敵な出会いに乾杯!」


「「乾杯!」」


ボルドーさんが用意してくれた料理はどれもとても美味しかった。美味しい料理が口を軽くしてくれたのか、食事の席でも沙羅との会話は弾んだ。


夕食を食べ終えた頃には、すっかり日が暮れてしまったので、そろそろおいとますることにする。


「ボルドーさん、今日は夕食をご馳走して頂いてありがとうございました。それと、沙羅は次会う時は学校で、かな?その時はよろしくね。」


二人にそう挨拶をする。


「良いってことよ!今日はソータにディナーを振る舞うって決めてたからね!それに、サラとも友達になってくれたってことは、これからも付き合いがありそうだしね!」


「はい!こちらこそよろしくお願いします!ソータが友達になってくれてとても心強いですから、これからもずっと仲良しでいたいです!ソータが居てくれるのが分かったので、神守に通うのが今から楽しみです!」


二人とも嬉しい返事をくれた。これから新しい環境に、しかも、恐らく既に交友関係が固まっているであろう状況で飛び込む僕にとっては、この二人の存在が何よりの励ましであるように感じられた。


家に帰り着き、転入のための準備をしながら今日あった出来事を振り返る。


(今日は波乱の一日だったけど、この力のお陰で二人と出会えたんだよな…。)


こう考えると、能力が判明した時は恨んだこの力も悪くないものではないように思えてくる。


(これからは、この力を今回みたいに人助けのために使っていこう。もう僕のような不幸な人を増やさないために。…それが、たった独りで残された僕の存在価値。)


そう決意しながら、準備を進めていった。




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