第57話

「青龍を抱きし臣下から、権力の在り処を正しく戻したが為に、我が国は他国と違い神の加護の元、飢餓も疫病も然程に存在せぬ住み易き国となった。権力の在り処による争い事が減ったが為、それによる血の争いも無かった。ゆえに平安なる治世が続き、お慶びの大神、八百万の神の加護を得られたのだ。それはひとえに御三方のお力ゆえだ。それも瑞獣お妃様ゆえの平安だ。のお方はなんと云っても世の乱れを厭われる。その為には御子様すら、青龍を抱きし天子に捧げられる。そしてをなされる為に、現世ではお気に入りの血筋の者を遣われる。……それがそなただ、それ故に過分の待遇をかの聖天子に与えさせた。つまり正二位の子孫の当主ものしか遣われぬ……と云う事であり、のお方のしもべという証の待遇だ。ゆえにそなたにはそれなりに、働いてもらわねばならない、私は皇后様が、みまかられたとは思っておらぬ。必ずや御戻りになられる。さすれば青龍を抑えてくだされよう……その様な尊きお方を害し、そしてこの様な状況を作ったのだ。主上の私怨云々よりも、身を持って償ってもらわねばならぬ……だが余りもの非道な行いは避けたい。しかしながら主上の御心中をおもんぱかれば、その御憤りは尋常では無いは理解ができる……しかし現在いまのあの御方は、御憤りと青龍の力とが相まって、それは恐ろしいものとなっている……ゆえに最愛なる皇后様の仇を面前になされては、如何程の御甚振りか想像するも恐ろしい……解ってくれるか?」


 伊織は、朱明を正視したまま言う。

 朱明はそんな大それた事を、成し得る自信が無い。

 小物霊の退治や呪詛などした事も無いのに、人間の命を絶つなど……そんな事、小心者で臆病者の朱明にできるはずは無い。

 無いが……。


「腹を括って意に従われよ」


 伊織は神妙に言った。

 だから朱明も、神妙な表情で重々しく頷いた。

 今上帝の、半端ない御憤りは理解ができる。

 なぜなら、瑞獣様を相手だからだ。

 さすがの朱明も、憎しみという感情は持ち合わせている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る