六巻

第58話

「はぁ……」


 朱明は牛車に揺られながら、溜め息を吐いた。


「如何されました?」


 五尾妖狐の孤銀が対座して、揺られながら心配そうに聞いた。


「いや……どうやって邪道陰陽師を、探せばいいんだろうか?まったく力が無いからさ……こんな時に、どうしていいか解らんとは、我ながら情け無い限りだ……」


 かなり思い詰めている感じだ。


「邪道なる者……とか怪しげな行いを致す者は……陰なる処に潜りたがるものにございます」


「陰なる処?……ってどこさ?」


 朱明は真顔を作って言った。

 真剣に朱明は悩んでいるのだ。とても人を害する事なんてできそうにないが、今上帝の御憤りが理解できる程に朱明も忿怒している。

 あれ程に愛らしい瑞獣様を殺めた相手なら、怒りも憎悪も抱いている。八つ裂きにしたって収まらない……が信条だ。行動が伴うか否かは別として……。

 孤銀が何かを言おうとした時に、牛車が止まった。と同時に孤銀の表情が恐ろしく変化する。


「どうした?」


 朱明は、牛飼童うしかいわらわに声をかける。


「陰陽寮の陰陽助おんようのすけ様の、安倍朱明様でございましょうや?」


 すると外から声を掛けられた。

 見ると孤銀が微かに唇から、普段には絶対に見せない鋭い牙を見せて、唸り声を上げている。


は?」


「我が主人が、願いたき儀がございますゆえ、是非ともお目にかかりたいと申しております」


「……主人?」


 呑気な朱明が聞き返すと、


「鬼の主人が如何様な用向きだ?我らを陥れる気か?」


 飛び出して行きそうな勢いで、孤銀が声を荒げた。


「お、鬼ぃ?」


 唖然とする朱明だが、外のの方が、大慌てしている様子が伺える。


「お待ち下さいませ孤銀様!!陥れるなどと……その様な事がありましょうものならば、私をこうして遣いに寄越す事は致しませぬ」


「……ほう?」


 鬼と聞いて朱明は動揺を隠せないが、孤銀は体勢を構えたまま、眼光を光らせて重々しく言った。

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