第112話
その父も早逝した為、女は実家の力に頼るご時世であったが、母はこの屋敷と正二位の直系の嫡子である朱明の為に、実家に戻らずにこの屋敷で二人の子を育てた。
なぜならば、神となられた親王から、信頼が厚かった正二位の直系の嫡子には、その護りとして不思議な痣を頂いている。
不思議なもの達と関わる事のある家系ゆえに、その不思議なもの達から護られる痣だ。
その護りを頂いている以上、この屋敷を護り続けて行かねばならない。
最近になる迄知りようもなかった事だが、身に余る屋敷の中でも立派な池は、尊き親王が知己の魚精王の金鱗に、屋敷を護ると共に唯一今生の人間の友であった、我が祖先の子孫を護ってくれる様に、お願いをしてくれる為に造った物だ。
だから嫡子は、此処を離れられない。
摩訶不思議なる屋敷を、守らねばならないからだ。
何せこの屋敷は、当時の主上から拝領した屋敷だから、決して大貴族の様に大きくはないが、
だから世間の人々が我が一族を、ちょっと怪しい一族と認識しても、致し方ない事だと昨今は思う様にもなって来た。
何せ大鬼とも知り合いの仲となったのだから、朱明も怪しい者の一人である。
身分不相応な屋敷に住み、身分不相応な特権を持ち、そして然程苦労もせずに陰陽寮に仕えられる。
そんな朱明に、やっかみの念を抱く者は多く、上司に嫌がらせを散々受けても、それは仕方のない事であった。
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