第112話

 その父も早逝した為、女は実家の力に頼るご時世であったが、母はこの屋敷と正二位の直系の嫡子である朱明の為に、実家に戻らずにこの屋敷で二人の子を育てた。

 なぜならば、神となられた親王から、信頼が厚かった正二位の直系の嫡子には、その護りとして不思議な痣を頂いている。

 不思議なもの達と関わる事のある家系ゆえに、その不思議なもの達から護られる痣だ。

 その護りを頂いている以上、この屋敷を護り続けて行かねばならない。

 最近になる迄知りようもなかった事だが、身に余る屋敷の中でも立派な池は、尊き親王が知己の魚精王の金鱗に、屋敷を護ると共に唯一今生の人間の友であった、我が祖先の子孫を護ってくれる様に、お願いをしてくれる為に造った物だ。

 だから嫡子は、を離れられない。

 摩訶不思議なる屋敷を、守らねばならないからだ。

 何せこの屋敷は、当時の主上から拝領した屋敷だから、決して大貴族の様に大きくはないが、対屋たいのやまで存在する寝殿造りの屋敷に、プチ庭園にそれは尊い神泉とかいう、神が住まうと言われている、神山に湧き出る泉の水を湧き出させている、それは立派な池が在り、其処には金鱗が住んでいるし、以前は夜に車を牽くと、姿を消す事ができるという牛が居たし車宿も存在する。その牛の牽く牛車で当時の今上帝を、最愛なる親王の待つこの屋敷にお連れした事により、主上からも信頼を得て、この屋敷を守る嫡子には仮令位階が低くとも、牛車を乗る事を許される特権を頂いた。それはこの屋敷が続く限りの特権だが、この屋敷が神と魚精王が護っているから、とても老朽化するはずもない。さすがに築地とか諸々と直してはいるが、到底二百年程前の建物とは思えない程だ。

 だから世間の人々が我が一族を、ちょっと怪しい一族と認識しても、致し方ない事だと昨今は思う様にもなって来た。

 何せ大鬼とも知り合いの仲となったのだから、朱明も怪しい者の一人である。

 身分不相応な屋敷に住み、身分不相応な特権を持ち、そして然程苦労もせずに陰陽寮に仕えられる。

 そんな朱明に、やっかみの念を抱く者は多く、上司に嫌がらせを散々受けても、それは仕方のない事であった。

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