第113話

 そして父の死を知った今は、その理由も理解している。

 ずっと母の実家の援助、正二位の一族の援助と思って生きて来たが、実質的にそれは確かだが、そう一族ができる様に法皇がして下さっていたのだと考えが至った。

 つまり父の遺児達に不自由の無い様に、法皇は親族達にそれなりの官位を与えてくれ、朱明の後見となる様にしてくれていた。

 母方の祖父は、然程高い身分ではないものの、一応貴族の端くれで朱明や妹を育てる為に援助をしてくれたし、父方の親族は朱明を陰陽師にしてくれた。それらは謝意の念を御抱きの法皇が、その存在を御隠しになられて、長きに渡り与え続けて下さった温情であった。

 だから朱明は、青龍をもっと知りたくなった。

 ……瑞獣様を害される程の、それ程迄の深い怨念を抱かれた法皇様。ただただ青龍を抱きし主上様への思いが、青龍への憧憬が、最愛なる中宮様への思いも我が子への思いをも御歪ましになられ、邪悪なものとされた。

 それ程の青龍とは、一体どんな物なのか……

 かのお方のその思いが、父を奪う事となった……

 妹に父の顔を知らぬ子とさせ、父に教えを得られなかった朱明に、不思議なもの達との関わりに恐れを持たせた。

 父はかの親王様の護りで、青龍からの攻撃ならば死ぬ事は避けられた。だが父は法皇に、を諦めさせる為に、我が身を犠牲にする方法を選んだ。それは当時の天子の命を守る為だ、法皇を御守りする為だった。

 法皇が何時いつ迄もを捨てずに、御母子共々狙い続ければ、いずれ力を持った御子様の青龍に、返り討ちに遭う事は目に見えていたからだ。

 その父の考えは、今の朱明ならば理解できる。今の朱明ならば、同じ事をするだろう。

 だから朱明は青龍を知りたいのだ。

 あの今上帝が抱きし、偉大なる青龍の恐ろしさを、我が身我が心で体感した今だから……。


 




 

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