第214話

「私がでなくば現れなんだのだ……そうだこれは天意だ。ただ一つそなたを害せる唯一の術だ。だがそなたは直ぐに勘づく。そなたは、そなたとそなたを抱く私を害する者には容赦が無い、ゆえにそなたに気付かれずに果てるは難しい。私はずっとそなたを欺く為に、そなたの意に沿う事だけを考えた。

 ……碧雅を害するもやむなし……

 かつて御父君様が、最愛なる我が御母君様に思い詰められた、その一言だ」


……フッ……そなたは最も私の好む気質……あの貴き最高神の血を濃く受け継ぐ天子……しかしながら、その一途さは見誤った……さてもそなたにたぶらかされようとはな……たかがの鸞の為に……しかし残念ながらそなたは失敗しくじった、その様な物で私を道連れにはできぬ……さて、そなたが果てたのちは、そなた程の者が現れるは難しかろうな……如何時を潰して参ろう……


 今上帝は思い瞼をゆるりと閉じられながら、微かに再び口角を上げられた。


「御父君様私は全てにおいて、貴方様とはが違うのです。最愛なる御母君様に、貴方様が授けられたこの身に流れるが、がどの天子より濃いのです」


 すると御懐かしい御声が、御返しくださる。


……確かにそなたは、私と違う決断を致した……私は純子が愛しいゆえに命を奪うも厭わなんだ……


「未だその様な、繰り言を申されますか?御父君様はいつまで経っても、執拗でございますな」


 今上帝は笑いながら言うが、もはや瞼を開けていられない……瞼が重くて重くて、もはや開けている事が苦痛となって来た。


……さても辛そうな……語り合うならで致そう。さすれば如何程いかほどにも時はある……


 法皇はそう言われると、御優しい微笑みを御向けになられたまま、視線を御逸らしになられ御姿を御消しになられた。

 それを今上帝は、重くてしかたのない瞼を、御開けになられ御見送り申し上げた。そしてこらえられぬ様に、直ぐにゆるりとその瞼を御閉じになられた。

 静かにただ静かに、御意識が何処かに吸い込まれて御行きになられた。



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