第213話
ゆえに御神刀は今上帝の御心のままに、その姿を現しそして今上帝の手に抱かれたのだ。
今上帝は御神刀の光りを見つめられ、微かに口角を上げられた。
「御父君様……貴方様には決してこの刀は御抜きになりませぬ……またしても私は、貴方様に妬まれるのでございますね……」
すると法皇は、その慈愛の微笑みを崩さずに、今上帝を見つめられている。
「……この刀は、大鬼も瑞獣も害せましょう……されど私は、貴方様の様にはなりませぬ……その衝動に動かされ、ずっとずっと貴方様は、御愛おしき御母君様を御苦しめになられた……その衝動を抑える術が無いならば、いっその事愛おしき瑞獣と共に果てるのみ……」
今上帝は舐める様に御神刀を真近に見つめられると、そのまま大きく刀を振り上げて躊躇う事すらされずに、御自身の首に沿って振り下され、一瞬にして噴き上がる血飛沫すら、その御眼に映し出す間も無く全てを無と還された。
……今上帝よ……
低く響く声が聞こえる。
今上帝は起き上がる事ができずに、重い御眼だけを開けられる。
……そなたは私の意に、沿うてくれるものと思うておったに……その神刀を呼び寄せ、邪魔なる瑞獣を追い遣るものと……否、そなたの心中はそう決めておったではないか?
「気など変える事などあり得ようか?そなたがずっと欲しておったから、それ故に私はずっと、そなたの意を果たそうとそう自身に言い聞かせた……かつて天孫が手にしていた御神刀は、その役を果たして姿を消した。それは使える者が存在せぬのと、その必要性が無いが為であった。それ程の物を、欲深き者達の居る現世に存在さすれば、禍にしかならぬは必定。ゆえに御神刀は、平定後姿を隠すよう天孫に命ぜられた……そしてあれが現れたは、私の濃き血とそなたの存在が相まってゆえだ、どちらかが欠けておれば、あれは現れず未だに隠れておろう……あれが現れた事により、私は私の果たすべき術を悟った。いいか?そなたがそなたでなくば、あれは現れなんだのだ」
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