第192話

 迄のものだったのだ。仮令最強の瑞獣様とて、その強い怨に敵うはずが無い程の、のもの……。


「……しかしながら私が居らぬ内に、そなたが逞しゅうなっておって吃驚だ……お母君様に言われそなたを頼って参ったが、全く頼り甲斐の無いヤツよ……と思うておったが、さすがお母君様である」


 皇后様に御褒め頂いて、嬉しいやら恐縮しきりの朱明である。


「まっ。そなたのこれからは安泰であろうから、そろそろ好きな女人を妻と致し、一族繁栄を考えるのだな……」


「はぁ……さようではございますが……」


「はて?その尻切れとんぼな物言いは、如何と致した?」


「はぁ……実は……」


「朱明はちょっと気になる事があって、言葉を継げずにいる。


「はて?はて?如何致した?何やら心配事か?」


 皇后様は少〜し、ヤキモキとされて聞かれる。


「あーいや。気がかりと言えば、気がかりではございますが……我が妹に、文を寄越すものがいるそうで……」


「おっ?とうとう春が来たか?」


「はぁ……やっとと言う感ではございますが……」


「なんだ?その不服げな言い回しは、さては妹を盗られる様で寂しいか?」


「何を申されます。妹ももはやいい歳でございますゆえ、もらってもらえるものならば、これ程嬉しい事はございません」


 朱明が兄の顔を作って言った。


「ならば如何した面持ちである?」


「はぁ……我が家の事を考えますと……果たして如何なる変わり者であろうかと?」


「はて?そなたの家を考えると、変わり者となるのか?」


「皇后様。我が家は鬼の大鬼丸を友とし、高高下駄の天狗様を師とし、霊に妖がチョロチョロと、関係を持ちたがる家柄でございます……故に妹は婚期を逃し、行き遅れた感があるのでございます」


「行き遅れ?と申しても未だ、二十を越した頃であろう?」


「はぁ……かしこくも主上様と同年でございますれば、もう少しおります。皇后様、この国は早婚なので、女人はそれは早く結婚を致すのでございます」

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