第191話

 そして一応の縁者という事で、皇后様にも久方ぶりの御簾越しのお目通りがかなった。

 皇后様は瑞獣鸞だから、人間のそれも貴族の慣わし的な事に関して、全くといっていい程無関心なお方だが、愛の力とは物凄いもので、最愛なる主上がいとわれる事は、渋々ながらでもなさらない。

 つまり主上の妻となられたからには、ずっと素顔を御晒しでお付き合いくだされていたが、その御姿をしきたりに慣い、御簾や几帳に隠されての対面とされた。それはただ夫たる主上の、御心中を計られての事だ。

 とにかく朱明にとっては、最強の瑞獣様が、高々の陰陽師にそれも他国の伝説になぞらえて、それこそ一時は本当に御殺らになられたと思った事もあったのだから、御元気そうな御声と相変わらずの御様子に、再び涙が溢れそうだ。


「いろいろと迷惑をかけたな」


「とんでもございません。ただただ再びのお目もじ叶い、まことに嬉しゅうございます」


 泣きそうな朱明に、皇后様は呆れた様に


「そなた、私が高々の者に殺れたと思うたか?」


 全くお変わり無い物言いに、朱明は思わず笑いが浮かぶ。


「よいか?は、産後ゆえ弱っておったからだ……でなくば、ヤラれるはずがない」


 相も変わらずの御様子で、プンプンとして御いでの様だ。


「……兎にも角にも、宜しゅうございました」


 朱明が言うと、納得はしないながらも、皇后様はご機嫌を直された様だ。


「そなたには真実手間をかけた。金鱗にはしこたま叱られた」


「金鱗様でございますか?それはたいそうな、ご案じ振りにございました」


「……であろう?もぉー凄く凄く叱られた……しかしながら神気がなかなか元に戻らず、癒すまで気配すら消えてしもうたのだ……」


 それ程迄の御痛手を受けられた……それはそれ程迄の、法皇の怨が与えたものだ。そしてでは足らぬ法皇が、不思議な力を持つ貝耀をも使い、その思いを最強として与えた……それ程迄のおもい














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