第177話

 何せ銀鱗が憧憬する、今上帝の母御にそっくりなのだから、我が王子の誰かに嫁に欲しい程だが、その話しはもう少し先になってからの事になりそうだ。


「……さて、姫も渡した事だし、皇子達は乳母と伊織殿の母御にお渡ししたし、銀鱗が寂しがっておるゆえいとま致そうか……」


「なんだ?もう帰るのか?」


 碧雅が不満そうに言った。


「銀鱗は、殊の外皇女を可愛いがっておる……それもそのはず、今上帝の母御にそっくりなのだ、本当なら手放したく無いらしい……ゆえに落胆しておるだろうから、早々に帰って機嫌をとってやらねばならん」


「……ウクク……皇女ができるやもしれぬな?」


 相も変わらずで、碧雅が姫が居るのも憚らず意味有りに言うものだから、金鱗と伊織が一瞬固まったが


「……それはそなたの処……であろう?」


 そこは金鱗だ。高笑いをして言い放って姿を消した。


「お母君様……」


 姫は、つぶらな瞳を向けて言った。


「銀鱗おば様は、王子様方の誰かに嫁げと申されます」


「なんとな?」


「……しかしながら、私はお母君様やお父君様のように、相思相愛で嫁ぎとうございますゆえ、もう少し先のお話しとして頂きました」


 まだまだ幼い皇女だが、余りの大人の返答に固まり続ける伊織である。


「さようか?ならばお父君様が目覚められたら、ご相談申しあげよう?」


 耳年増の雛を思えば、全く驚く術もない姫ではあるのだが……。


「お母君様は皇后となられましたゆえ、弘徽殿に入られる事におなりだとか?弟が眠ってしまいましたゆえ、乳母が先に参っておりますゆえ、私も行っても構いませぬか?」


 しっかり者の皇女様が此度金鱗の処に世話になり、輪をかけてしっかりしておしまいだ。これでは下手をすると、お母君様の皇后様よりしっかりしているかもしれない。


「あー……さようであるな?好きに居たせ……」


 女同士の何かが見えなくもない様子に、伊織は固まって見ている術しか持ち合わせない。

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