第175話
その笑顔は、何時までも御優しい。
「そなたにも、私の思いが解る時が来よう……」
そう法皇は言われる。
「御父君様、私はそれが解ったのでございます。あれが戻って参ったゆえ、解ったのでございます」
「……ならば、そなたが如何致すか、楽しみであるな……」
法皇はただ御慈愛に満ちた笑みを、御浮かべになられて言われた。
「そなたは如何と致すのであろうか……」
今上帝は再び眠りについた。
だが今回はその御側に、皇后様が御いでになられる。
ただそれだけなのに、何とも安堵していられる事だろう……そう伊織は、ご寝所の御帳台の外で侍りながら思った。
「陰陽師は如何です?」
皇后碧雅は、御帳台の中から伊織に声をかけた。
「あれも気を失っただけにございます……翌日には目を覚ましました」
「さようか?……あれは随分と力を上げたな?見違えてしもうた」
「……さようでございますか?私はそちらの方は……」
伊織が恥じ入る様に言うと、皇后はクスリと笑った。
「……そなたみたいなのが一番面白い……知った顔をされるは不愉快だ」
伊織が御言葉を、理解できずに黙っていると
「そなたは我らを、決めつけて考えぬからな……見たままを受け入れる」
「恐悦至極にございます……」
と言われ、むず痒い思いで頭を下げた。
「……私が青龍より守った、あの特別なる者は如何です?」
「あれは……」
「なに……あれが例の、陰陽師くずれであるは知っている。かなりのものを持っておるが、私を仕留めたはあれではない。ただただ法皇の、今上帝に対する怨念よ……あれ程の思いをあれ程に致せる能力は、さすがの私も予想できなんだ……そしてあの矢……あれ程の者ならば、上手く育てねば惜しい……ゆえにそなたの力で上手くやってくれ」
「皇后様……」
「そなたを始めと致し、今上帝には力のある者を侍らせたい……青龍が好むものゆえ……」
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