第168話

  朱明は陰陽助のまま、何故か位階が従五位下となり、陰陽頭様と同じになった。

 従来陰陽助の位階は従六位の上だが、位階が従五位になったので、父と同じ蘇芳すおう色の衣を着る事を許される。これで万が一の覚悟を容易に決められるというものだ。

 朱明は濃いめに染めた衣に身を包んで、父のあの日の思いを今朝の我が思いと重ねた。


「陰陽師……」


 父の様に濃い蘇芳色の衣を纏って、屋敷を出ようとする朱明に、純白の直衣姿の金鱗が池から姿を現して言った。


「微かに、碧雅の気配を感じる様になった……」


「ま、まことにございますか?」


「ああ……この三日程前からだ……ゆえに碧雅は必ず戻って参る」


「有り難や……」


 朱明はそう言うと、凛とした表情を金鱗に向けた。


「……金鱗様、万が一の場合は、皇后様にお願いできますね?」


「……ああ、必ずや遣り遂げる」


「……ならば思う存分に致せます」


 朱明が清々しく笑うから、金鱗は真顔を作って見た。


「……ああ、思う存分に致せ。しかしながら、その身を賭けるは尚早ぞ」


「……………」


「碧雅が何時戻るか、解ってからでも遅くはない……であろう?仲間にもそう伝えよ。命を賭けるはも少し先だ……」


「しかし機会が……」


「そなた等高々のものは、その様な事は考えずに次を待て……よいか?目先に捉われて、大事なものを賭けるなよ……を賭けるには尚早と申しただけだ……無理を致すなという事だ。上手く事が運べば、ゆるりと碧雅を待てる……それだけの事だ。碧雅が還るを解って、命を賭けるは愚かだろう?」


 金鱗はジッと、朱明を見つめて尚も言った。


「お前等は愚かだから言うのだ。お前とそしてお前……」


 金鱗は狩衣を浄衣じょうえとして、朱明に従い共に行く孤銀に言った。

 伊織によって孤銀は朱明の助手、貝耀がいようは僧侶として、禁庭の行事に参加するを許されている。

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