第159話

「そやつが碧雅を……」


 ギリリ……と金鱗の口中が軋んだ。


「……何も知らずに、法皇様の片棒を担がれました……ただ法皇様の怨念を、その身に介されただけで、皇后様を害されました……」


 金鱗は呆気に取られた様に、物静かに語る孤銀を見つめた。


「……天孫の血は摩訶不思議よ……その様な者を生み出し、大青龍までも抱かせる……高々の人間が大半だが、天が選びし者が存在するが皇家だ……それが天の大神の血を濃く受け継ぐ者で、それ故に国を統べるを許される……高々の人間のみに統べらせるはずもない……がおるから、我らは護るのだ……解った。ならばそなた等に我ら一族は力を貸そう……我らは禁庭の池より禁中を護っておる、ゆえに加担するは容易い……」


 金鱗は、酔っ払い朱明の直衣の襟元を掴んだ。


「朱明よ!我らを上手く使えよ……でなくば、朱が頼りと致した祖先に面目が立たぬぞ……」


「はっ?それはお任せくださいませ」


 朱明はゆらゆら揺れながら、酔っ払っているものだから、それは気が大きくなっている様だ。


「この朱明、生まれ持った大いなるを解放致しましたゆえ、必ずやこのを金鱗様にお見せ致しましょう……決して失望は致させません」


 天の月を仰いで大口を叩いた。


「……フッ……いつもそのくらいの気概あらば、頼もしい限りだがな……」


 金鱗が手を離すと、朱明はそのままコトリと横たわって、それは心地良い寝息を立て始めた。


「妖狐よモチっと飲もう」


「……しかしながら……」


 孤銀が朱明を気にする。


「あーほっとけ……かつて今上帝は、禁庭の釣殿で一夜を明かした……主人が致したのだ、官人が致すは当然……」


「主……主上様がでございますか?」


「愛おしき碧雅を抱いて、一夜を共にした……コヤツは哀れだが、己の膝でも抱いておればよかろう?」


 金鱗は笑うと、酒を注いだ盃を孤銀に差し出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る