第158話

「はっ?何を言っている?」


 金鱗は怪訝気に、酔っ払いの朱明ではなく、しらふの孤銀に視線を向けて言った。


「かつて朱明様の父御様が、胎児の今上帝様の青龍を眠らせ、今上帝様の成長と共に大きくなるの力を、封じたのでございます」


 金鱗はハッとする様に、孤銀を見つめる。


「……ゆえに青龍は眠っておったのか?私も青龍は知っておるが、眠っておるはゆえかと思うておった……とにかく程のは此処には存在致さぬゆえ、私も解らなかった」


「……はい。その強大なるの、気配を感じた父御様は、我が身に呪を放ったと共に、を隠れ蓑と致して、青龍を眠らせる呪をも放ったのでございます……」


「ふ〜ん?……」


「しかしながら、が御できになられたは、今上帝様が胎児であられ、青龍が大いなる力を発揮致せぬ内ゆえ……今やご成人あそばされ、偉大なるお力をお持ちのお方ゆえ、目覚めた青龍の力は計り知れず……」


「確かに……」


 金鱗は盃に口を付けて、至極考え込む素振りを見せる。


「いくらの力が解放されたといえ、まだまだ未熟だ……仮令父親の様であっても難しいぞ?」


「……それでも、遣らねばならぬお覚悟でございます……父御様の願いでございまれば……」


の父は、を我が身と同様に致す気か?」


「……かと存じます……」


 酔いが回ってうだうだと、体を揺らす朱明を金鱗は見つめた。


「………確かに……関わった以上、何もせぬわけにもいかぬ……俺が手助け致し、そなた達が命をかけても……事はならぬが八割だ……」


「もうひと方、お助けくださいます方が……」


「ほっ?命知らずな?」


「法皇様の弟君様の貝耀がいよう様というお方で、それは不思議なる力をお持ちでございます……」


「不思議な力?」


「法皇様の念を込められた経を復誦されますと、皇后様を害される程のお力を発揮されましたとか……」


 金鱗は形相を変えて、孤銀を見つめた。

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