第152話

「お前は地べたを這う様にして、生きて行かねばならぬが、に、御父院様がお前の母を思うて、誕生致した御子様なのだ……そう思うて、恥ずる事なく地べたを這うて生きていけ……そしていつしか必ずや、御兄君様の苦悩をその御子様、今上帝様にお伝え致すのだ……止むに止まれずの御心を、包み隠さずお伝えするのだ……それが神仏が御認めの皇家の証しぞ?我ら高々の人間が決めし、御親王様では無い……神仏が御認めの、尊き天の大神の血を、濃く受け継ぐ者の証しぞ?」


 それを聞いた貝耀がいようは、ポロポロと涙を流して頷いた。

 天孫の血はそれは尊い。それは今生に生きている者達が、知っている事だ。それに優劣を付けるのは、高々の人間だ。そしてそれは后妃の血筋で決めるのも、高々の人間の貴族達だ。

 だが真実の天孫の血は、相手の血筋では決まらない。

 誕生前より濃く受け継ぐ者を、が決める。その天の大神か、それ以外のものなのかは、高々の人間には解ろうはずも無い事だ。だがゆえに、永く世を統べれる者とそうで無い者、又は端から許されぬ者とが存在する事だけは確かな事で、それが高御座に座る天子の苦悩となるのも確かな事だ。


 師匠は朱明の父の遺したものを、思案する時を欲しいと言われ、朱明も納得して一旦山を降りる事にした。

 とにかく明日は、参内しなくてはならない。

 ならば貝耀を含めた弟子達とも話し、何かしらの策を持たせて、貝耀を朱明の屋敷に送る約束を、高僧のお師匠様から頂いた。

 ボロ寺を辞して孤銀と歩いていると、例の大高下駄天狗が大きく木を揺らして降りて来た。


「何だもう帰るのか?」


 朱明と同じ目線の癖に、上から目線のいい様だ。


「……はい。明日は参内せねばなりません」


「何とも、すまじきものは宮仕えであるな?」


「さようにございます」


 朱明はいとも簡単に天狗が言うから、思わず笑ってしまった。


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