第151話

「……そして私はそれだけでは無い、かのお方の呪の様な祈りを知ったのです。その祈りは恐ろしくも、途轍もなく怨を持ったもの……その念はそれは強くそして深く暗く淀み、かのお方を身動きできぬ程に、雁字搦めておるもの……大きく深い嫉みでございます……」


 貝耀がいようは一旦言葉を切って、師匠と一躍と五一を見て視線を朱明へと動かした。


「かの方はずっとその御心持ちを、御苦しみであられたのです……だから私は、かのお方の意に沿うたのです……かのお方の御苦しみを少しでも軽くする為に、今上帝には全てを手放してもらいたかった……あれ程のものを御抱きであるとは、想像もしていなかった……は我らが決して触れてはならぬだと、そう察せられたはずっと後の事だ……大鬼と共に島に参って、初めて理解した。あれは皇家に言い伝えられる青龍だと……それも抱ける天子と、抱けぬ天子が存在する……そしてかのお方が、切望してやまなかった存在……ずっと愛おしむべき御子様を、嫉み続けて来たその要因……」


 貝耀は、言葉に詰まって俯いた。

 すると師匠は、貝耀の背を愛おしげに撫でやった。


「貝耀よ。これも御仏のお慈悲よ……」


「……何をお師匠様、この様な事……」


「よいか?お前は私の可愛い弟子でありながら、私の言葉など聞く耳も持たずに、他国の呪術に魅入られた。破門となり山を降り、そしてかのお方と最期の時を過ごしたのだ。それはかのお方の御心の奥に、お前の母御に対する思いが、事実としておありだったゆえ、その思いにお前を添わせてくだされたのだ。兄弟としての一瞬の時をくだされ、その御兄君様の御心中を、お前にお見せになられたのだ……誰も知る由も無いかのお方の、真実の御心をそなたにお見せになられたのだ……何とも有り難い。天涯孤独のお前が、今生に生を受けしその理由を、貴き御兄君様より、教えて頂けたとは……」

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