第147話

 朱明と孤銀は寺の奥に在る、荒寺の奥の荒屋あばらやを修復しただけの住居に、師匠達と共に腰を落として座した。そして孤銀が背負って来た荷物を解いて、父の書き遺した物を師匠に差し出した。


「これは?」


「父が以前、胎児の今上帝様の青龍を眠らせた折の、呪術とその過程を記した物でございます」


「青龍を眠らせたのか?」


 師匠は、驚愕の表情を浮かべて朱明を見つめた。


「その様な事が可能なのか?」


 師匠は、書き留められた綴りを見入る。


「……それによりますると……未だ胎児のお方ゆえ、どうにかなったのかと……」


「……なる程……大青龍といえども宿り主が胎児ならば、強大な力を発動は致せぬという事か……」


 朱明は真顔で大きく頷く。


「それに目を付けた父は、今上帝様が御育ちになられると同時に、青龍の力が大きくなるを止めるべく、青龍を眠らせたのかと……」


 朱明が今まで、不思議の池の金鱗に聞いた青龍の話しから、青龍は今上帝と共に誕生するものではないと想像している。

 覇王となって国を大きくし力を貪り尽くし、そして宿り主が死ぬと、側に気に入りの者が存在しなければ、気に入りの者を探して飛んで行くという。

 つまり青龍は宿り主と共に死ぬのではなくて、何処かに飛んで行く……生きているのだ。そして新たな気に入りに抱かれる。

 ただその宿り主の成長に合わせて、青龍の力も成長?否、力を解放して行く。

 つまり最終的には、青龍が持っている力に、堪えられる者が宿り主という事だろう。

 ……朱明の言う処の、という事だ……


「しかしながら、只今いまの今上帝様は、もはや胎児ではございませぬ……なんとも御立派な大人でございますよ?……つまり、かなりの力を青龍は有しておる……という事でございましょう?」


 いろいろ読み進めていた師匠が、朱明を見つめて言った。


「……はい。私は御目通り頂いておりますが、その御力は計り知れませぬ」

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