第148話

 あの恐怖は計り知れない。

 朱明は今上帝の放つ、あの恐ろしさを思った。

 あれは確かに最愛なる皇后様……瑞獣様を失しての御憤り、御哀しみで放たれるものだが、それにしても恐ろし過ぎるものだ。

 その御哀しみと御憤りが、解る程に恐ろしい。だがそれは、大青龍の力がなせる事だ。今上帝様の青龍は目覚めた……。

 その御憤りと御悲しみで目覚め、そして神すらも危惧する方向に動いて行く。

 だから朱明は、早く父の遺言を果たしたい。果たしたいが、その力は余りにも強大過ぎて、朱明はやり遂げる自信が無いのが本心だ。本心だが遣り遂げねばならないと思い詰めている。仮令呪を我が身に返して果てようとも……。その時孤銀を共に連れて行こうとも……。

 父の遺した式盤は

 ……死なずに行う術を、御探りくださいませ……

 と言ったが、余りもの今上帝の御憤りと御悲しみで、そんな猶予はなさそうだ。

 だから朱明はいざとなったら、父と同じ様にするしかない。

 父の遺した、記述に基づき呪術を施す。

 その覚悟はできているが、悲しいかな朱明には父程の能力が無い。

 否、考えれば解る事だが、父以上の能力が無くては、現在いまの今上帝の青龍は眠らせられない。だから朱明は師匠を頼った。

 腹は括っているが、その能力不足が心もとなくて、やみくもには父の真似はできない事は、さすがの朱明も知っている。


「……お前の父御は、式神を使ったのか?」


「ああ……はい」


 思い悩む朱明は貝耀がいようが、師匠の手元の綴りを覗き込んで言った言葉で、現実に呼び戻されて返事をした。


「……お前、式神使えるのか?」


 五一が朱明の痛い処を突いてくる。

 できない訳ではないが……的な状況な為返事が遅れる。


 式神とかよく言うが、式神は原来鬼神だから、和御魂にきみたまの神霊だけでなく、荒御魂あらみたまの神霊の位の低い神を呼び出し使役する事だ。

そしてその式神を、力のある陰陽師は橋の下に隠して使役すると云い、自身も鬼神に近い存在となると云う。

 神だ神……この国にいっぱいいる八百万の神の

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