十五巻

第146話

 今上帝は、それはバカでかい青龍を抱いている。

 それも稀有なるこの国に、かつて存在した事のない程のデカさだ。

 遥かに大陸が続く、大国に存在する大物だ。

 そしてその大国はどんどん国を広げ、そしてその強大なる力によって、破壊と殺戮が尽くされ、豊かな土地も生物達も穢れに覆い尽くされ、青龍が他に行った跡は何も遺らないと言われている……そんな青龍だ。

 そんな青龍がなぜ、この小さな国に誕生したのか……否、そんな青龍を抱ける天子が、此処中津國に誕生したのか……。

 それは、天しか知り様の無い事だ。

 青龍の存在を崇め大切にする皇家すら、まして今上帝すら望んだものではない。

 ただ天意で今上帝は、そんな青龍を抱いて今生に誕生したのだ。

 此処中津國が稀有なる国で尊い国と言わしめる、天が必要に応じて誕生させる大神が、最も信頼し寵愛する瑞獣の鸞のお妃様は、その偉大なる力ゆえか、はたまた大神の力によるものか、今上帝が誕生する以前に、その兆候を素早く目敏く察せられた。その強大なる青龍を抱きし天子が、いずれ此処中津國に誕生するという事をだ。

 天が必要に応じて誕生させる大神が座すこの国は、絶対的に平安であるべきとお考えのお妃様は、国の乱れを酷くおいといになられる。そのこだわりは八百万の神々ですら閉口される程だ。

 何せこの国の八百万の神々は、それは大らかで大雑把な方々達だから、多少の乱れなど此処に生きるもの達がどうにかすればいい事で、どうにもならなくなったら、救いの手を差し伸べればいいと、そんな暢気のんきにお考えの方々だからだ。

 ところがお妃様は、特別中の特別なる存在の主人たる大神が座す限り、絶対世の乱れを許せないのだ。

 大神の威厳と威信を、けがしたくないのだ。

 だからお妃様は、愛娘を今上帝に差し出し、その一途な愛情を糧に、娘の碧雅の神力を上げさせ、その大青龍を抑えさせるが為に、瑞獣鸞の碧雅を今上帝の側に后妃として置いたのだ。

 瑞獣鸞の力は、男女の恋愛による愛の力が一番強いから、だから一途過ぎる今上帝の愛は、大青龍を抑える程の力を妻の碧雅に与え続けた。つまりどんなに貪欲に力を貪ろうとも、大青龍は最大なる愛の力を与えられ続け、それ以上の力を欲する事を望まぬ様に、鸞の神力によって抑えられたのだ。

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