第145話

 ……今上帝をそそのかあやかしならば、他国の伝説をもじって退治するは面白い……と、そう法皇様が笑いながら仰ったのだ。だから貝耀は、かつてお師匠様が他国に渡られた折に、かの国の妖狐退治に使われたという、本物の二本の矢の内の一つの、その欠片を持ち帰られたのを思い出し、ただただ法皇様の余興にと盗み出して使用した。するとどうした事だろう、自分の不思議なるの所為だろうか?その矢は透明な一本の矢となって、天を舞う皇后を射りそのまま、綺麗な姿をクルクルと回しながら落ちて行った。

 ……だから、真実皇后は妖だと信じていた。

 今上帝を虜とし唆して天下を望む、よこしまなるあやかしだと……


「貝耀様、如何して此処に?大鬼丸と共に、鬼島に行かれたのでは?」


 朱明が仰向けに横たわる、貝耀を覗き込んで言った。


「あーああ……」


 貝耀は、目元を覆った掌を外して朱明を見た。

 鼻血は流れるから、貝耀は身を起こして口から血を吐き捨てた。


「大鬼に連れて行かれたが、法皇様も気になるし……隙を見て逃げて来た」


 すると朱明は、貝耀をジッと覗き込んだ。


「法皇様は青龍によって、焦げた塊となられました」


 貝耀のみならず、その場の者達が動揺を表した。


「……主上様はその塊の埋葬を命ぜられ……大喪後みささぎに置かれましたものか否かは……それよりも、主上様の御憤りは未だに御鎮まりではございません。あなた様がお戻りと、お知りになられましたならば、決して御見逃し無いと存じます。何卒なにとぞ大鬼丸の所に……」


「私は何をしでかしたのだ?それによっては、生き永らえる事など許されぬのだろう?」


 貝耀が朱明を直視して言うから、だから朱明はただジッと、半身をもたげる貝耀を見やった。

 師匠も一躍も貝耀を見つめる。

 ただ何も知らない五一が、皆んなの顔を伺っている。


「……確かに大罪を犯されました」


 朱明はやっとの事でそう言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る