第144話

「兄者はが、瑞獣鸞ずいじゅうらんだとは知らなんだか?」


「……瑞獣鸞?」


 貝耀は仰向けのまま、鼻血塗れの顔を一躍へ向けた。


「……伝説の、大神からの平安治世の祝いのか?」


「ああそうだ!そのが御子様を、今上帝様の御抱きの青龍の力を抑えるが為に、お捧げになられただ」


「……そんな……」


 貝耀は、瞼を閉じて掌で覆った。

 確かにかのあやかしは、その青い炎を全身から立ち上がらせ、そして大きく美しい羽を広げた。その羽は碧く煌々と輝いて、見惚れる程に美しかった……。こんな綺麗な妖が存在するのかと……貝耀は真実そう思った。

 だから貴い今上帝が虜とされるのだ……と納得した。

 法皇様は他国の伝説をもじって、今上帝をそそのかしている妖を退治すると言われた。

 今や今上帝には、お二人の親王様がおありになられる。

 関白を父に持つ女御様と、左大臣を父とする女御様の親王様方だ。

 御誕生からいえば、関白家の親王様が東宮と立せられる。だが未だにその宣旨は発せられない。だけではなく、側近中の側近と宮中で言われ、乳母子の伊織の縁者で、陰陽寮の陰陽助とも縁者だというが、どうも素性の判然としない妖しげな女御が、公卿くぎょうの娘の女御を差し置いて、皇后に立せられる事を決められた。……という事は今上帝は、素性の判然としない皇后がつい最近産んだ親王を、東宮としたい思いがあるものと、宮中の者達は今上帝の心中を計った。

 しかしこれは、公卿の中の力のある一族達の不満となるは必定だ。

 第一先々今上帝が薨られ、その東宮が高御座に御着きになられたとして、身分が低く素性の判然とせず、後見すら存在しない天子などに、貴族達が従うはずもない事は目に見えている事だ。

 内乱が起きかねない状態となる……そう危惧された法皇様は、その唯一の禍根である皇后を廃する事とされた。この国この宮中……ひいては今上帝の御為……。

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