第125話

 朱明はその夜、銀色妖狐の孤銀の背に跨って、霊山天狗山に向かった。

 当然明日の休暇届けは、使用人に届ける様に言い渡してある。

 たぶん陰陽頭おんようのかみ様なら、 朱明が青龍の事で動いている事は、察してくれると思っている。

 唯一父と青龍の関係を知っている人物だ。そして大青龍の存在を朱明と共にその肌で感覚で、特殊なで判然と認めた人物だ。

 このままでは大変な事になるだろう事を、予感している数少ない一人だろう。


 孤銀は大きな妖狐と化して、朱明を背に乗せて天狗山を目指して走った。

 神や神に近い瑞獣や精霊ならば、一瞬にして移動する事が可能だが、孤銀は未だ五尾の妖狐だ。妖狐といっても眷属神の一部なので、九尾となったら大神に仕える神使となる。

 大神に仕える主人は、大神が御寵愛される瑞獣お妃様の御子様の、親王様のお守り役として大神より任を受けて 、後院に引かれてからずっとお側にかしずいた。それはその親王様を、大神が御寵愛される瑞獣お妃様よりも、御寵愛が甚だしいからで、ご誕生直ぐに神となるをお許しになられた程で、そんな御寵愛ぶりであるから、大神が一番に信頼する主人を親王様に傅かせ、ご教育を任されたのだ。

 そしてその親王様のお腹違いの弟君様が、今生をみまかられる時に共に親王様も彼方に行かれ、神となられた親王様の永き生を、共に生きられる事となった。

 親王様には今生に、それは頼りとされた人間の知己がおいでになられ、その知己とその知己の子孫を護る為に、その偉大なるお力で額に護りの刻印を押された。

 そしてその親王様にならい、親愛の情を示し主人もその知己に、護りとなる主人の一部を残した。これが孤銀で、孤銀は銀製の狐の根付けとして残された。だから孤銀は、ただの根付けだけのはずであったが、大神のその偉大なるお力と親王様のお力で、少しずつ尾の数が増え、そしていずれ九尾の神使となれるお約束を頂いた。


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