第124話
そんな日々を過ごし、もはや父の遺品を手にしても、涙などで目を潤ませる事も無くなった頃、朱明は塗籠の中に墨で何やら書き始めた。
「霊符にございますか?」
「……うん……式神なんて物も操れないからな……だけど……だけど気だけ焦るんだ……
朱明は霊符を書いたものの、その先をどうしてよいか思案する。
父が書き遺した呪を唱えた処で、何も起こらないし起こるはずも無いと納得の朱明だ。
「……教えを頂けるお方を、お探しになられては?」
「教え?陰陽頭様か?」
孤銀はそれには、躊躇がある様だ。
孤銀が納得しない事は避けた方がいいと思うのは、幼い頃からの付き合いで得た経験からだ。
「あー教え?」
朱明は、ピカリと頭に閃いて孤銀を見た。
「天狗山の、お師匠様に相談してみよう」
「他国の呪をお使いの?」
「……違うだろう孤銀。それを持ち帰り。我が国に合ったものを悟られたお方だ。そして大いなる大神様を尊ばれておられる……つまりお前の主人の仕えるお方を、尊ばれておられるお方だ。そして大青龍の事もご存知のお方だ……そうだ……皇后様に施された呪についても、ご相談申し上げ様……そして……」
朱明は、父の遺品を手にして握り締めた。
……父の呪についても伺いたい……
きっと何かを、示して頂けるかもしれない……。
そう朱明は思った。
なぜ急にそう思う様になったのか、それは父が遺し切れなかった、孤銀への最後に朱明がわだかまりを持ったからだ。
なぜこれ程迄の孤銀に……。とずっと考えが及ぶからだ。
そしてそれは孤銀の主人たる、大神の神使で眷属神の主人に思いが行くからだ。その眷属神が大神に仕え、大神に信頼される眷属神だからだ。
その大神を尊び、朱明よりも遥かに大神を身近として悟りを開いたお方だからだ。だから……だからなぜだか、父とは無縁の高僧なのに、最も近く思えてしまうのだ。
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