第119話

「私はお父御様に使われし、式盤でございます。お父御様が事をなされた暁には、呪を施し葛籠つづらに籠り、を待つ様仰せつかりました」


「……時?何の時だ?」


「龍をお抱きの貴きお方の、青龍が目覚めたにございます」


 式盤は軽々と宙に浮いて、天盤を回しながら語る。

 それを朱明と孤銀は凝視する。


「青龍の目覚め?やはり青龍とは、時が来るまで眠っているものなのか?」


「何を……青龍は、眠ってなどおりませぬ」


 フルフルと天盤が震えて、吃驚感が滲み出てちょっと笑える。


「……だが今し方……」


「お父御様が呪を我が身に返すと致しながら、中宮様の御腹の青龍を眠らせる呪をかけたのです」


 その言葉に朱明と孤銀が、驚愕の表情を浮かべた。


「朱明様を、たぶらかすでない!」


 最後を知っている、孤銀が声を張った。

 最後迄共に居た故に、声は大きくなった。


「いいえ。お父御様は、青龍を眠らせる呪を隠した呪も、同時に放たれたのです。それ故に式神をに置いたのです。青龍に決して気づかれぬ様に、確実に呪を当てる為には、その呪を介す物を少しでも側に置く必要があったのです。つまり式神を介して、が放たれる様にされたのです……」


「……つまりお父上様は、ご自分の姿の式神と我が身に、呪を当てる呪を施されたのか?」


「さようにございます」


「……何ゆえに?そうなされたのだ?」


「龍が余りに大き過ぎたが為……原来抱かれし青龍はその威厳ゆえに、抱かれしお方は近寄りがたく、多少の恐れを持たれるきらいがございます。

 そして余程のものしか、その存在に気がつく者はおりません……しかしながら、此度の青龍は桁違い……まだまだ幼きお方が抱くには、それは大き過ぎました。ゆえに御子様が大きく御成になられます迄、睡らせねばこの世が乱れると、そうお考えになられたのです。お父御様のお考え通り、その間青龍は今上帝と共に、成長する事は致しませんでした……ずっと睡ったまま成長はせずに、今上帝のご成長を果たさせたのです……しかしながら、いつの時か目覚める事がある……」

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