第120話

「……そう懸念したお父御様は、貴方様が青龍と対面したを鍵と致し、この葛籠が開く様にされました。何ゆえか?貴方様に再び、青龍を眠らせる呪を施させるが為にございます。青龍は今上帝がみまかられましたその時に、好む者が存在致さぬ限り、何処かに飛び行く性質でございますゆえ……」


「つまり、今上帝の青龍が目覚める毎に、呪を施せと?」


「貴方様の生涯かけての、お役にございます」


「……しかし、私にはそんなに命は無いぞ」


「何も全てに、命をお掛けにならずとも?お命を掛けずとも施せる方法を、ご思案くださいませ」


 天盤は呆れる様に言うと、クルクルと回る。


「私の使命は果たされました故、これにておいとまこうむります。葛籠つづらに遺されし物をご覧くださり、お役にお立てくださいますよう……」


 そう言うとフッと動きを止め、そのまま床に落ちて音を立てて破れた。

 朱明は暫く、真っ二つに破れた式盤を見つめた。

 式盤にはのある者が所有すると、神や霊が宿ると云われているが、父はかなりのの持ち主であった様だ。

 そんな事を考えていると、孤銀が難しい顔容を浮かべているのに気が付いた。


「どうしてお前に黙って、青龍を眠らせたんだろうね?」


 すると孤銀が、ピクリと反応して朱明を見つめる


「孤銀……そこまでしないと、青龍は騙せなかったのかなぁ?ならばお父上様は、大そうなお方であったのだなぁ……あの青龍を眠らせたのだから…」


「さようにございます……ゆえに貴方様にも、は備わっておいでにございます」


 孤銀が畏まって言った。


「……そうかなぁ……できるかなぁ……お父上様からの、最初で最後の命を成し遂げられるかなぁ……」


 朱明は、瞳に潤みを溜めて孤銀を見て言った。


「……はい。ゆえに私は、貴方様に仕えておるのでございます……再び光となって散りましょうとも、お言付けは守ります」


「馬鹿だなぁ……私は気が弱いから、お前と共に貫かれたりはできないよ……」


 朱明は頰に、一筋の光を流して笑った。

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