第118話
「はい……まだ幼き朱明様と、母御様の胎内の妹御様を、それは不憫に思われておいでで……それでも私には、笑顔をお向けになられておいでにございました。幾日も幾日もお考えの末に、決断された事でございます……あちらの系統を受け継ぐ、
しかしながら陰陽助様は父御様のお言葉を、全て信じてはおられなかった様でございます……それでも亡骸は、法皇様に見せしめねばなりませぬ……」
「法皇様に父上は、青龍の反撃により死したと、そう信じさせる為か?」
「さようで。陰陽助様は、その様にお伝えになりました……そして私は当時高々の三本尾、盾となり呪を受けましたが、父御様の身代わりとはなれませずお許しくださいませ」
朱明はありありとその色褪せぬ濃い蘇芳色に、父の血が滲み出て衣を染めて行く、その光景を眼に浮かべた。
「……ならば何故に、この様な衣が此処に……」
仮令父の物だといっても、父が死んだ時に身に付けていた衣など、後生大事に母が仕舞っているはずはない。妹を腹に抱えた母が、できるはずはないし、それもこれ程の物だ、母が目にすれば害があるだけだ。
否、母は父の死の衝撃で寝込んでしまい、無事妹を産む事ができるのか、身内の者達に心配をかけたと言われている程だ、こんな衝撃的な物は遺せるはずもないし、たぶん母の知らない内に身内が、全て事を済ませていた可能性が高い……。
「……父か?お父上様が、お遺しとなられたのか?ならば何故に?」
すると葛籠の中から式盤が宙に浮いた。
「朱明様……お会いできてお喜び申すべきか、残念と致すべきか……」
式盤は天盤が地盤の上で、クルクルと回って言った。
「誰ぞ?物の怪か
朱明が身構えるが、朱明の危機を告げてくれる孤銀は、放心の体で式盤を眺めている。
「私はそなた様のお父御様に、託されしものにございます」
「お父上様が?」
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