第117話
「先程はこんな物は無かったぞ」
朱明が怪訝気に、孤銀を見て言った。
「……これは貴方様しか、開かぬ仕組みでございましょう……それも今の、貴方様でなくば開かぬのです」
「どういう事だ?」
「ご覧を……この
孤銀が指差す箇所を見入ると、色褪せた
官人は直ぐに見て解る様に、衣の色が位階によって違う。五位の父は蘇芳色の官服だったので、小祭装束の浄衣を同じ色に染めさせたのだろう。
朱明は慌てて衣を取り出して広げると、後ろ身頃に変色した箇所が広がっている。
「あの時返って来た呪が、私とお父御様を貫きました。私は光となって散り、お父御様だけが此処に御倒れになられたのです……」
「こ、此処?此処でお父上様は、呪をお受けになられたのか?」
朱明が、真剣に孤銀を見つめる。
「かのお方はかなりのお力をお持ちで、違う系統のお力のある一族の
「式神?如何して式神なのだ?」
そう言うと、朱明は孤銀を食い入る様に見つめた。
「青龍を騙す為式神を父御様と致し、陰陽寮に置いたのでございます」
「青龍を騙す?」
「呪を受けるは覚悟でございます。しかしながら、我らの動きを悟られてはなりませぬ。ゆえに父御様と致した式神を、陰陽寮で通常の様に働かせたのでございます……
孤銀は、苦渋の表情を浮かべて言った。
朱明は父の事を、孤銀から聞くのは初めてだから、父の最後を聞くのは初めてだから、だから思わず聞き入った。
「父上様は、その様なお覚悟をお決めになりながら、それでも笑われたのか?」
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