第83話

 関白は摂政を務めたが、それは今上帝の御母君様の、叔父に当たったからだ。それは御母君の父前々関白の、年の離れた異腹の弟に当たる。母親が違うだけで系統が違う家系となるのが、あの一族の摩訶不思議な処で、そして一族でありながら陥れ合うという恐ろしい一族だ。

 前関白と今上帝の御母君様は、同腹の御兄妹であられたから、性格も知性も似ていたのだろう、法皇が御兄妹揃って御寵愛された。

 だが御兄弟の父とは、違う系統の母を持つ現関白兄弟は、どう見ても凡人だ。抜きん出ている処は無く、強いて言えば弟の亡き左大臣の方が、抜け目の無い性格だったかもしれない。そして御寵愛過ぎた御兄妹と御比べになられる為か、とにかく法皇は嫌って御いでであった。

 確かに母に聞く限り前関白御兄妹は、余りに聡過ぎる程であったから、神にも愛されて短命だったのかもしれない。

 そんなお二人の姫君様とて、これといって惹きつけるものを持った女御ではない。あの今上帝が長きに渡って恋い慕った、中宮を知っている伊織にはその違いが解り過ぎる。

 つまり彼等の子を見て、親の代の図も想像できるという事だ。

 法皇は関白御兄妹を、死しても尚御寵愛され続け、今上帝は長きに渡って、その子の中宮を思い続けられた。

 そこには余りにもの、人間としての魅力に差があり過ぎたのだろう。

 後院に着くと、今上帝は案内を待たずに中へと御入りになられた。

 全ての者を残して、伊織が慌てて跡を追う。

 薄っすらと不気味な笑みを御浮かべで、今上帝がそれは楽しそうに渡廊を渡られる。慌てて姿を見せた後院の者達は、その今上帝の恐ろしげな雰囲気に圧倒されて、ただその場に平伏す事しかできない様だ。

 伊織は今上帝の後に従いながら、後院の官人達にそのままでいる様に言い渡した。

 そして寝殿に入るや今上帝は、恐ろしい程の不気味な笑みを、御浮かべになられた。

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