第64話

「私と同じ……と申しますははばかられます……が、我が主人ともなりますれば、瑞獣と同等の物かと存じます」


「何を卑下しておる?神使も瑞獣も同じだ……神使には眷属神が存在し、瑞獣は神獣だ。そして妖狐は何方どちらにも存在する、一番神に好かれる種族で、結局同じものだ。……もっと引っ括めれば、俺とて神のはしくれだ。ゆえに力がある……」


 大鬼丸はサラリとなんか言ったが、朱明はスルーを決め込んだ。

 もしかしたら、此処中津國では、そういう事なのかもしれないが、それはちょっと認めたくない朱明である。

 そんな事をいったら陰陽師としての、全ての概念が狂ってしまう様な気がしないでもないからだ。


「……ならば退治も可能……という事か……」


 朱明の声が小さくなる。

 伊織が信じている瑞獣様が戻られるが、思う存分揺らいでしまう。


「……朱明よ。その国で確かに、退治致しておらばの話しだぞ?第一我らは、そう容易く退治などされぬ。そなたがどうにかこうにかこなせる、小物霊の調伏とはわけが違う。我らは敵わぬと悟れば、地下にも潜るし島にも潜む。八百万の神とは、上手くやって来ているからな。この大地は大地の大神の物だ。その大地に住まうもの達は、太古の昔より食ったり食われたりの共存を許されておる。其処に天の大神が、天孫を降臨させ国を司らせた。大地の大神は、そんな細やかな事には気がいかぬものゆえ、全く気にせずに譲って司らせておる。そんなお前達が、我らを快く思わぬだけで、我らはそなた達人間に、敵意など持ってはおらん。ただそなた達も、我らの食い物となり得るだけの事だ。それは自然界では至極当然で、今生に生を受けしもの全てに当てはまる事だ」


 大鬼丸が当然の様に言うから、朱明は異議を申し立てたい思いに駆られる。食われては堪らない。絶対に厭だ。

 朱明は思わず、気にも留めずに言い張る大鬼丸を睨みつけた。

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