第65話

「……しかしながら、青龍に食われては堪らぬと、私を頼られておるではございませぬか?我らとて食われるは堪りませぬ」


「ははは……言うが通りだ朱明。俺とて食われたくはない……だがそれ以前に、青龍に呑み込まれれば、俺の力がヤツの物となる。中津國はいろいろとおるからな、物凄い力をアヤツに与える事となる。さすればかなりの巨大な龍となりて、近くの国を征服してもっと大きくなって行くぞ……そして今上帝が死して、やっとが終わる。だが巨大化した青龍は、再び何処かの誰かに抱かれて、再びのを待つのだ。だがヤツが食い尽くした国は、ただの衰退しか残りはしない。力という力を食い尽くすからな、再生の力などは残ってはおらぬ……再び国として立つには、どれ程の歳月を費やすか解らぬし……もはやに、我らの姿は存在せぬ……ゆえにそなたに願っておるのだ、を止めて欲しいとな……今上帝を止めるしかないからだ。だが今上帝はもはや青龍だ。青龍を殺る術はないぞ……」


 大鬼丸が真顔で言った。

 その恐ろしい言葉に、朱明は我が父を思って顔容を強張らせた。

 陰陽頭おんようのかみだった父は、法皇に今上帝を仕留める様命ぜられ、それは決して敵わぬ事を知っていたから、我が身を犠牲にして法皇の考えを変えさせた。それは確かにそうだが、朱明はそれだけでは無かっただろうと考える。もし自分なら、どうせ敵わぬ相手であり、主人の命を果たさぬばならぬならば、我が身を犠牲として、法皇に諦めさせると共に、一族の安泰をも含めた、両得を考えるだろう。

 つまり命ぜられたままに呪を施しても、どうせ敵わずに死ぬのならば、法皇をいさめた形を残して、主人に悔恨を植え付ける。何方どちらにしても死ぬ我が身だ、肉体を失くして得を取りに行く。

 だから陰陽頭は、系統は違うが我が一族だし、朱明はその陰陽頭の元で非力ながらもご奉公が叶っているし、分不相応な生活をしていられるのだ。

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